ただそこに愛があるなら

「お嬢様。明日は始発の新幹線で移動ですので、早くお休みくださいね」

屋敷に着くと、車から降りる絵美梨に手を貸してから、要はそう声をかける。

「分かったわ。緋山もゆっくり休んで。それから、これ」

ふいに手を差し出され、要も思わず手を伸ばす。
すると絵美梨は、要の手になにかを握らせた。

「メリークリスマス。おやすみなさい」

照れ隠しのように視線を落としてそう言うと、絵美梨はタタッと玄関に駆け込む。

その後ろ姿を見送ってから、要はおもむろに手を開いてみた。

(えっ、これって?)

真っ白な箱にかけられたゴールドのリボン。
そこに小さなカードが挟んであった。

【Merry Xmas!いつもありがとう。味は保証できないけど、お腹は壊さないと思います】

は?と、要は思わず固まる。

(まさか、これって……?)

再び車の運転席に座り、要はそっと箱を開けてみた。
入っていたのは、きれいにラッピングされた手作りのスノーボールクッキー。

(お嬢様が、これを?)

いつこれを作る時間があったのだろう。
あんなにも忙しい毎日だったのに。

自分の為にプレゼントを考えてくれた、それだけでも嬉しいのに、まさか手作りだなんて。

要は込み上げてくる涙をグッとこらえた。

(クリスマスにプレゼントを贈るなど、彼氏気取りのことは出来ないと、俺はお嬢様になにも渡さなかったというのに)

絵美梨はきっと、ただ純粋にこれを贈りたいと思って作ってくれたのだろう。

(なんて情けないんだ、俺は。誤解されないように気をつけなければ、などと言い繕ってばかりで。お嬢様は、真っ直ぐで温かい心を俺に向けてくれていたというのに……)

己の不甲斐なさに腹が立ち、要は拳を握りしめた。

自分に対する怒りは、心の中の言い訳や建前を打ち砕く。
残ったのは、心の底から絵美梨を愛している、その気持ちだけだった。

「お嬢様……」

切なさに涙声で呟いた時、かつての今池の言葉が脳裏に響いた。

『なにきれいごと言ってんねん。自分が幸せにしろや。あんたが絵美梨ちゃんにふさわしい男にならんかい! 身分の違いがなんぼのもんや。そんなん、オバケに食わせとけ』

そうだ。
きれいごとなんてもう言うもんか。
身分の違いを言い訳にはしない。
自分が彼女にふさわしい男になってみせる。

沸々と湧いてくる絵美梨への愛情と共に、要は唇を噛みしめてそう決意した。