ただそこに愛があるなら

「社長、先日のパーティーを主催された戸川社長から、夕べメールをいただきました。パートナーシップについて、改めて説明させてほしいとのことです」

翌朝、屋敷まで絵美梨を迎えに行き、サロンへと向かう車の中で、要はそう切り出した。

「ああ、そんなお話だったわね。んー、悪い話ではないと思うし、一度詳しく聞いてみようかしら。緋山、スケジュールを調整してアポを取ってくれる?」
「かしこまりました」

サロンに到着し、スタッフが開店準備を進めるかたわら、要は早速戸川へのメールを打つ。
そこにフローリストの香織がやって来た。

「あの、緋山さん。今少しよろしいですか?」

周りを気にするように小声で話しかけてくる香織に、要も手を止めて顔を上げる。

「どうかしましたか?」
「はい、あの、これなんですけど……」

そう言って香織は、手にしていたスマートフォンの画面を要に見せた。

「昨日エゴサしていたら、この投稿が引っかかって。お客様と絵美梨さんが映っているんですけど、色んなコメントと一緒に拡散されていて……」

要も画面に目を凝らす。

そこには、このサロンでにこやかに接客している絵美梨の写真が掲載されていた。

その横にいるのは、昨日打ち合わせをしたあの新婦。
どうやらあの時の新郎が撮った写真のようだった。

「これって、昨日のお客様ですよね? 元の投稿は、【二人でドレスの打ち合わせに行ってきました。噂のサロン、とってもすてきでした!】っていう、新婦のアカウントみたいなんです。だけどそこから、色んな人の下品な書き込みと一緒に広まってしまって」
「ちょっと失礼」

要は香織から受け取って、スマートフォンの画面をスクロールする。

【おっ、絵美梨ちゃんだ。正真正銘のお嬢様〜。水商売もしてるってよ】
【パパ活して、大富豪の愛人がたくさんバックについてるらしい】
【誘拐して脅したら、十億でもポンと払ってくれそうww】
【いい女だなー。ひと晩でいいから相手してくんないかな】

それ以上は耐えられず、要はグッと奥歯を噛みしめてスマートフォンを香織に返した。

「緋山さん、絵美梨さんが目にする前になんとかなりませんか?」
「もちろんだ。すぐに顧問弁護士に相談して、削除要請を出させる」

香織はようやくホッとしたように肩の力を抜く。

「良かった。お願いします、緋山さん」
「ああ。知らせてくれてありがとう」

香織が持ち場に戻ると、要はすぐに自分のスマートフォンを取り出してサロンの隅に移動し、顧問弁護士に電話をかけた。

『承知しました。すぐに対処いたします』
「はい、よろしくお願いいたします」

手短にやり取りを済ませてデスクに戻る。

(ネットはこまめにチェックしているつもりだったが、油断したな。彼女が知らせてくれて良かった)

香織に感謝しつつ、これからはもっとしっかりSNSを見回らなければと己に言い聞かせた。