ただそこに愛があるなら

(さてと。フロントに行く前に、仕事を済ませておくか)

一人残されたリビングで、要はスーツのジャケットを脱いでシャツの袖をまくった。

パソコンを広げると、やり残した仕事を始める。

集中しているといつの間にか2時間経っており、時計を見て驚いた。

(もうこんな時間か。あと少し、キリのいいところまで仕上げたら終わりにしよう)

その前に、眠気覚ましの冷たいお茶を飲もうと、アイスペールを手に部屋を出た。

廊下の突き当りの製氷機で氷を入れると、しばし窓の外に広がる夜景を眺めてから部屋に戻る。

と、ドアを開けた途端「要くん!」と声がした。

え?と顔を上げると、バスローブ姿の絵美梨が飛びついてきた。

「お、お嬢様? どうされました?」
「だって、パタンって音がしたから見に来たら、要くんがいなくて。呼んでも返事がなくて、私、怖くなって……」

絵美梨は要にギュッと抱きついたまま、必死に訴える。

「一人にしないで、要くん。お願いだから」
「お嬢様……」

要は優しく絵美梨を抱きしめると、ソファに座らせてからひざまずく。

「申し訳ありません。氷を取りに行っていました」
「えっ、氷? そうだったのね」
「お嬢様は、お休みではなかったのですか?」
「うん。寝る前に今日のレポートを書いてたの。そしたら、かすかにドアが閉まる音がしたから」
「そうでしたか。驚かせてしまってすみませんでした」
「ううん。私こそ、子どもみたいに怖がってごめんなさい」

要はそっと絵美梨の両手を握った。

「大丈夫、私はいつもお嬢様のそばにおります」
「そうよね。今までだって、いつもそうだったもの。ありがとう」
「いいえ。お嬢様、温かいハーブティーでも飲まれますか?」
「ええ、お願い」
「かしこまりました」

絵美梨は要が淹れたハーブティーを飲み、安心したようにホッと息をつく。

そのうちにトロンと眠そうな表情を浮かべる絵美梨を、要は寝室へと促した。

「ゆっくりお休みください」
「ありがとう、おやすみなさい」
「おやすみなさい、お嬢様」

絵美梨は要にあどけなく微笑んでから、すうっと眠りに落ちていく。

結局要はフロントへは行かず、もう1つの寝室で休んだ。