ただそこに愛があるなら

「すてきな空間ね! 絵美梨ちゃん、センスがいいわ」

今池は、要が淹れたコーヒーをひと口飲んでから、サロンを見渡す。

「ここにいるだけでうっとり夢見心地になっちゃう。シャンデリアにヨーロピアンな家具。もう乙女心を鷲掴みよー」
「ふふっ、それなら良かったです。あとで2階もご案内しますね」

今池は絵美梨の手を握って、ありがとう!と笑いかける。

(なんて近い距離感。お嬢様も、なぜそんなに笑顔を振りまく?)

要はどうにもヤキモキしてしまう。

お客様が途切れたタイミングで、絵美梨は今池を2階に案内した。

「えっ、ヤダ! もしかして、今池素直!?」

メイク道具を整理していた乃亜が、階段を上ってきた今池を見て、驚きの声を上げる。

「あらー、かわい子ちゃん。そうよ、私が噂の今池素直よ」
「きゃー! すごい、本物ですよね?」
「もちろん。あなたも美容師なの? なに子ちゃん?」
「はい! 美容師の乃亜です」
「乃亜ちゃんね。ちょっとメイクさせてもらってもいいかしら?」
「もちろんです」

今池は乃亜をドレッサーの前に座らせると、じっと鏡の中の乃亜を真剣に見つめてから、横に置いてあるメイクボックスに手を伸ばした。

ブラシを手に取ると、鮮やかな手つきで乃亜の頬にチークを入れていく。
続いてアイラインやアイシャドウ。
眉の形を整えてから、最後にリップを塗った。

「すごい! たったこれだけで別人みたい」

乃亜は信じられないとばかりに、鏡の中の自分を見つめた。

「乃亜ちゃんのメイクも悪くないわよ。だけど引き出しは多い方がいいでしょう?」
「はい。自分ではこんなメイク、したことありませんでした。目元もダークな色を使ってるのに、ちっとも暗くならないですね」
「パーツをはっきりさせれば、乃亜ちゃんのもともとの色白さが、より一層引き立つのよ」
「ありがとうございます。すごく勉強になりました」

今池は「どういたしましてー」と、またもとの口調に戻った。