ただそこに愛があるなら

絵美梨(えみり)さん」
「はい」

呼ばれて振り返る絵美梨を、(かなめ)は後ろからさり気なく見守った。

今夜のパーティーの主催者、戸川(とがわ)一彦(かずひこ)が、にこやかに近づいてくる。

マッチングアプリの開発で勢いに乗り、事業を大きく拡大させた、今なにかと話題の35歳の若手社長。

爽やかな笑顔とスタイルの良さで、自らCMに出演し、企業のイメージアップにも繋げていた。

戸川は自信に満ちた表情で絵美梨に笑いかける。

「絵美梨さん、このあと少し時間あるかな? 場所を移して御社とのパートナーシップに関するお話をさせてもらいたいんだ」

髪を結い上げ、ラメ入りのブラックのタイトドレスに身を包んだ絵美梨は、少し首をかしげて戸川を見上げた。

「パートナーシップ、ですか?」
「そう。うちのマッチングアプリに登録されている女性のお客様を、絵美梨さんのサロンでプロデュースしてもらいたいんだ。美しく変身したらそれだけで女性は嬉しくなるし、男性からのアプローチも増える。それに我々の企業イメージも似ているところがあるから、常々あなたと一緒に仕事をしてみたいと思っていてね。どうかな?」
「それはとても興味深いお話ですね」

微笑んで頷きつつ、絵美梨が視線を斜め下に落とすのが分かり、要はスッと身を寄せた。

「社長、あいにくこのあとは外せない予定が入っております」
「そう、残念ね」

わざと戸川に聞こえるようにやり取りしてから、絵美梨は戸川を振り返る。

「戸川様。申し訳ありませんが、今夜のところはこれで」
「仕方ない。ではまた日を改めてお時間をもらえるかな?」
「承知しました。秘書を通じてご連絡いただければと存じます」

絵美梨がそう言い終えると、要はスーツの内ポケットから名刺を取り出して、戸川に差し出した。

「社長秘書の緋山(ひやま)と申します。こちらまでご連絡いただけますでしょうか?」
「緋山さんですね、分かりました」

名刺交換を終えると、要はすぐに絵美梨の斜め後ろに戻る。

「それでは戸川様、わたくしはこれで。今夜はお招きいただき、ありがとうございました」
「こちらこそ。一段と美しいドレス姿の絵美梨さんを見られて嬉しかった」

そう言って右手を差し出し、絵美梨と握手しながら、戸川は絵美梨のウエストを抱き寄せる。

「また会える日を楽しみにしています、絵美梨さん」

耳元でささやく戸川に、絵美梨はわずかに後ずさった。