教室までの道のりは、深海を歩くのに似ている。
重い水圧のような空気が、一歩ごとに全身にまとわりつく。
肺が圧縮され、呼吸が浅くなる。
すれ違う生徒たちの笑い声が、自分への嘲笑に聞こえる。
名前も顔も知らぬ子たちなのに、そう聞こえる。
今朝は雨だった。
昇降口は濡れていて、上履きがないから、靴下で歩いた。
ペちょ、ペちょ。
濡れて重たくなった靴下が、情けない足音を立てる。
誰もが、自分を避けて流れていく。
まるで川の流れに乗れない石ころを見ているかのように、誰も近づかないし、視線さえ向けない。
楽しげな会話。
友人を呼ぶ声。
笑い。
それらの音は鼓膜を震わせるけれど、別世界の出来事のようだ。
みんなはわたしをいないものとして扱う。
誰にも声をかけられない。誰とも話しできない。
透明でない透明人間。
人間扱いされない人間。
存在しているのに存在を認めてもらえない。
そんなものに、声をかける物好きはいない。
わたしは情けない足音を立てながら、1年A組の教室に入る。
なくなった椅子を探すのが最初の仕事だった。
***
