放課後、ボクらは無重力。



大通りを歩いていた。

片側二車線の道路。街灯がオレンジ色の光を等間隔に落としている。
車は一台も走っていない。
遠くに、テールランプの赤い点がひとつだけ見えた。それもすぐに角を曲がって消えた。

先輩が、ふいに歩道の縁石から降りた。

車道に。

白線の上を、綱渡りでもするみたいに、一歩ずつ踏みしめて歩き始める。

「……車道ですよ、そこ」
「深夜1時の車道は、昼間の歩道より安全だ。統計的にも、論理的にも」

先輩の背中が、アスファルトの黒い海原に浮かんでいる。
街灯の光を受けて、長い影が路面に伸びている。
その影は、どこまでも先まで伸びていて、まるで道路そのものが先輩のために存在しているみたいだった。

縁石の上で立ち止まる。
ここは境界線だ。
歩道と車道のあいだの、たった15センチの段差。
でもそれは、昼間であればルールと法律でがんじがらめに固められた、絶対的な境界。

深夜1時。
車はない。人もいない。
誰もわたしを見ていない。

足を、下ろした。

サンダルの底が、アスファルトに触れる。
歩道のコンクリートとは違う、ざらりとした感触。
油と砂埃の匂いが、かすかに足元から立ち上る。

広い。

車道に立った瞬間、空間の密度が変わった。
歩道には壁があった。ガードレールがあった。街路樹があった。
ここには何もない。
左右に広がるアスファルトの平原と、その上にのしかかる夜空だけ。

二人で、二車線道路のど真ん中を歩いた。
白い破線が、滑走路のセンターラインみたいに前方へ伸びている。

風が吹いた。
遮るもののない、広い場所の風。
スカートの薄い生地が脚に張り付いて、髪が靡いた。
歩道で感じる風とはまるで違う。空気の量が違う。圧力が違う。
世界が、わたしの全身に触れている。

遠くの交差点で、信号が赤から青に変わった。
誰もいない交差点。車もいない。歩行者もいない。
それなのに、信号は律儀に色を変え続けている。

それが、なぜか可笑しかった。
声を出して笑ってしまった。

「赤信号にも仕事があるんだな」

先輩が言った。

「観客がいなくても踊り続けるダンサーのようなものか」
「わたしたちが観客ですね」
「世界で唯一の」

わたしたちの影が、アスファルトの上に長く長く伸びていた。
二つの影は、歩くたびに揺れて、伸びて、街灯を通り過ぎるたびに方向を変えて、また伸びる。

言葉は少なかった。
先輩もわたしも、あまり喋らなかった。

でも、それでよかった。
車道の真ん中を歩いているという、ただそれだけのことが、言葉よりもずっと雄弁だった。

ルールを破っているのに、誰にも叱られない。
境界線を越えたのに、何も起きない。

さっきまで胸の奥を圧し潰していた重力が、ほんの少しだけ、緩んでいた。