非道な殺し屋頭領は、甘美な毒で花を欺く


 そのとき、

「暁さん、いつまでその方をかまうおつもりですか? もう具合も良くなっているのでは?」

 鮮やかな(べに)を引いた女が寄ってきて、赤髪の男の肩に手をのせた。

 椛は、澄まして微笑む女の唇から視線をはずすように菅笠を目深にした。また、彼女の赤に惑わされてはたまらない。

 椛がそのまま後ずさるように離れようとすると、

「あんたこそ、まだここにいたのか」

 声をかけてきた女を振り向いた男が、無機質な声でそう言った。

「い、居てはなりませんでしたか……」

 男の冷たい声音に、女が怯えたように唇を震わせる。

「注文の団子は渡しただろう。用が済んだらとっとと帰れ」
「でも私、まだ暁さんとお話がしたくて……」
「あいにく、俺はあんたと話すことなどひとつもない。店を閉めると言うのに無理やり中まで押し入ってきて、迷惑極まりないんだが。俺がおまえのような女に気を寄せるわけがないだろう。その手を離せ」

 男が嘲るように鼻で笑って、肩に置かれた女の手を乱暴に振り払う。

「ひどい……」

 冷たくあしらわれた彼女が、涙目で唇を噛む。それから手に持っていた団子の包みを男に投げつけると、走り去った。

「ああ、ひっでえ。あの女、覚えてろよ」

 男が低い声でぼそっとつぶやく。男の『覚えてろよ』に、おもわずゾワッと鳥肌がたった。

 見れば、男の着物は包みから漏れた団子のみたらしでベタベタに汚れている。

 さっきの女が、ひどい復讐をされないといいが。

 要らぬ心配をしていると、男がふいに椛をジロリと見てきた。

 今から懐刀を抜いて標的をひと突き――とはいけそうもなく、椛は一旦引こうと決めた。

 どこか宿でもとって、作戦を練り直さなければならない。