第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

廊下。

ティアナの部屋の前で、空気はぴんと張りつめていた。

「……レオ」

背後からかかった声に、レオの肩がびくっと跳ねる。

振り向くと、そこには腕を組んだユウリが立っていた。
柔らかな笑み――だが目は完全に据わっている。

「あなた、何を張り合っていたのですか?」

「え、えっと……その……」

「看病は競技ではありません」

ぴしゃり。

「お嬢様の体調より、自分の存在感を優先した理由を説明してください」

「……できません」

「でしょうね」

ユウリはため息をついた。

「あなたの明るさは長所です。
ですが場を誤れば、ただの騒がしさになります」

「……ごめんなさい」

「反省してください。深く」

「はい……」

レオは素直に項垂れた。

一方、数歩離れた場所。

別の修羅場が展開されていた。

「……殿下」

低く、静かな声。

ディランの前に立つのは、殿下の側近レイだった。

「ティアナ様の看病を承諾しましたが」

レイの視線が鋭くなる。

「張り合えとは命じておりません」

「……」

「あなたは王子である前に、
一人の男性として感情を前に出しすぎです。
前から考えればそれはいい傾向ではありますが」

ディランはわずかに眉を寄せる。

「ならいいだろう――」

「よくないです。
あなたは守ろうとして、
逆に追い詰めてしまうことがある」

「……自覚している」

「なら、抑えてください」

静かな声が、重く響く。

「“想い”は武器ではありません。
振り回せば、傷つくのは相手です」

ディランは深く息を吐いた。

「……忠告、感謝する」