第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「……不器用だと?」

「ほら、距離感とか。近すぎたり遠すぎたりしそうで」

「余計な心配だ」

ディランはレオの持つ器に手を伸ばす。

「彼女は俺の婚約者だ」

「それって契約上でしょ?」

レオは器をひょいと引いた。

「婚約者って言葉で独占しないでくださいよ」

「独占ではない。保護だ」

「言い方がもう独占なんですよ!」

2人の間で、スプーンが宙に浮く。

「俺が食べさせる」

「俺です!」

「殿下は威圧感がある」

「レオは軽すぎる」

「軽くて結構!」

視線がばちばちと火花を散らす。

「……」

私は開きかけた口をそっと閉じた。

「殿下、力入れすぎです」

「レオは近づきすぎだ」

「お嬢さんが緊張するでしょ!」

「俺のほうが安心するはずだ」

「聞きました!? 本人に聞きました!?」

2人同時に、私を見る。

「ティアナ、どちらが――」

「お嬢さん、どっちが――」

さすがに限界だ。

「……ふたりとも」

静かな声。

だが、ぴたりと空気が止まる。

「出てってください」

「……え」

「今すぐです」

感情を抑え淡々と告げる。

レオが最初に我に返る。

「す、すみません……」

「申し訳ない」

ディランも深く頭を下げた。

「少し、うるさかったですね」

「……少しじゃない」

私は布団をぎゅっと握る。

「食べるどころじゃない」

2人は顔を見合わせ、同時に視線を逸らした。

「……廊下で反省してきます」

「俺もだ」

そろって扉へ向かう背中に、私は小さく付け加える。

「戻ってくるときは……静かにしてください」

「はい……」

「心得た……」

扉が閉まる。

ようやく訪れた静寂の中、
りんごゼリーだけが、テーブルの上で静かに揺れていた。