第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

こんこん、と。

少し強めのノック音が響いた。

「失礼いたします」

扉が開くと同時に、
朝食のワゴンと一緒に現れたのはアリスだった。

いつもより歩幅が早い。
表情も、どこか険しい。

「お目覚めになられましたか、お嬢様」

「うん…おはよう」

そう答えるより早く、
彼女はずいっと私の額に手を伸ばす。

「……熱、なし」

「喉の腫れも、問題なさそうですね」

ほっと息をついた、次の瞬間。

――ぎろり。

視線が、真後ろに立つ人物へ突き刺さった。
さっき出て行ったはずでは…

「……殿下」

「なにかな、アリス」

ディランは涼しい顔だ。

「一晩中、同じ部屋にいらしたと伺いましたが」

「ああ」

即答。

「看病だよ」

「…………」

アリスの目が、すっと細くなる。

「“看病”とは、具体的にどこまででしょうか」

「水を飲ませたり、熱を測ったり、
手を握ったり」

「殿下」

ぴしっ。

「最後の一つが、非常に引っかかります」

「必要だった」

「必要以上では?」

「必要最小限だ」

「判断基準が殿下基準では困ります」

……ひぃ。

2人の間に、目に見えない火花が散っている。