第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

馬車がゆっくりと止まる。
ディランのエスコートで馬車を降りるとそこは街が見下ろせる高台だった。

夕暮れの柔らかな光が街を染めている。
オレンジ色の空が建物の影を長く伸ばし、通りに歩く人々の顔を優しく照らしていた。

「きれいですね」

「そうだね」

ディランも優しく相槌をうつ。

「ティアナ」

穏やかで甘い声で名前を呼ばれる。

「これを」
ディランが差し出す小さな箱に目を向ける。

「これは……?」

ディランは微笑みながら、手をそっと差し出す。

「指輪だ。君は俺の婚約者だから」

確かに、形だけでもそうしないと…だよね。
形式上のことだと思いながらも、夕暮れの光に照らされた指輪の宝石…アレキサンドライトが緑から紫にゆっくりと変化する。
心の奥で、なぜか胸が少し高鳴る。

ディランはくすりと笑い、指摘する。

「形式上と思っている顔だね」

私は慌てて視線をそらす。
「違うのですか?」

ディランは真剣な眼差しで彼女を見つめる。

「それもあるけど……本当は、俺が君にあげたかったんだよ」

「きれいなアレキサンドライトですね」

ディランも指輪を見つめながら、静かに言った。

「ああ……君は以前、言っていただろう。
“貴方の瞳はこの宝石みたいだ”って」

「ええ」

夕暮れの光を受けて、指輪の石がわずかに色を変える。
緑とも紫ともつかない、不思議な輝き。