第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

殿下とレイが帰っていったあと、応接室には静けさだけが残った。

……やってしまった。
まさか殿下まで乱入してくるとは思わなかった。

私は深くため息をつく。

その一方で、当のお嬢様はというと――
レイから聞き出した筋トレメニューを、ノートにびっしり書き写しながら満足げに頷いている。

「ふふ……これ、すごく効きそう……」

完全にご機嫌だ。

はああ……。



そして後日、レイから聞いた話によると――

「殿下が、私の筋トレメニューを始められました」

「……殿下が?」

レイは苦笑しながら頷いた。

「“ティアナ様が惚れ惚れする身体を作る”と仰ってまして」

あの殿下が、レイのメニューを真剣にこなしている姿を想像してしまい、思わず吹き出しそうになる。

レイは肩をすくめた。

「レイさんも苦労してますね」

「ええ、でも楽しそうなので良しとします」

レイさんがふっと笑う。

お嬢様は筋肉談義に夢中になり、殿下は対抗心を燃やし、レイは巻き込まれ、私はその後始末。

伯爵家の廊下で起きた騒動は、こうして静かに幕を閉じた。

けれど、きっとまた近いうちに――
お嬢様はレイに筋肉の話を聞きに行くのだろう。

その時はまた、私が止める役目になるのだろう。

……はあ。

でもまあ、
お嬢様が楽しそうなら、それでいい。