やがて、曲が終わる。
俺は一歩下がり、教えられた通りに頭を下げた。
その仕草の一瞬――
アリスの姿が、ふっとお嬢様と重なる。
同じドレス。
同じ立ち位置。
けれど、決定的に違う存在。
胸の奥が、静かに疼いた。
「……ふん」
すぐに、鼻を鳴らす音が飛んできた。
「で、エリック。どうだ」
オリバー団長の問いに、エリックは腕を組んだまま、こちらを値踏みするように見る。
「硬い。以上」
「……以上か」
「最初から最後まで肩に力が入りすぎだ。
相手を導くんじゃない、引きずってる」
ぐさり、と刺さる。
「だが」
一拍置いて、エリックは視線を逸らした。
「逃げなかったな。
目も伏せなかった。手も、離さなかった」
その言葉に、思わず息を詰める。
「踊りは下手だ。だが――
“隣に立とう”って覚悟は見えた」
短く、言い切る。
「それで十分だ。今日はな」
そう言って背を向けると、付け足すように言った。
「次は、もっと胸を張れ。
お嬢様の隣は、下を向く場所じゃない」
……厳しいくせに、ずるい男だ。
俺は小さく息を吸い、背筋を伸ばす。
――いつか。
本当に、あの人と並んで踊れる日が来たなら。
その時は、もう迷わない。
視線も、想いも、何ひとつ隠さず。
堂々と、手を差し出そう。
『……俺と踊ってくれますか?」』
そう言える自分であるために。
今はただ、この一歩を踏みしめる。

