第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

その様子を見て、
ナナ嬢も一歩前に出て、深々と頭を下げる。

「本当に、ありがとうございました。
お2人がいなければ……」

「顔を上げてください、ナナ嬢」

そう言うと、彼女はゆっくりと頭を上げる。


しばらくして、
ディランが静かに口を開く。

「……さっきの湖にあったものだが」

その場の空気が、少しだけ引き締まる。

「魔女の雫、だな」

「はい」

私は頷いた。

「完全に浄化できました。
でも……引きずり込まれた理由は……」

そう言って、ナナ嬢を見る。

彼女はカップを見つめたまま、
少し間を置いて口を開いた。

「……私、ですか?」

「はい……」

私はゆっくりと言葉を選ぶ。

「魔女の雫は、人の負の感情に漬け込むものです。
強い感情を持つ人ほど、引き寄せられやすい」

私が話し終えると、
ディランが静かに続けた。

「ナナ嬢の気持ちに、
あれが反応したのだろう」

「そんな……」

ナナ嬢の指が、カップの縁を強く握る。

私はすぐに首を振った。

「でも、大丈夫です」

できるだけ明るい声で言う。

「もう浄化はできましたし、
今回はたまたま条件が重なっただけです」

安心させるように、笑ってみせる。

「運が悪かった、ただそれだけですよ」

「そうだぞ」

マルクも大きく頷いた。

「無事だったんだから、それでいい。
それ以上、考えることじゃない」

ナナ嬢は少し驚いたように2人を見て、
やがて小さく息を吐いた。

「……ありがとうございます」