第3部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

ティアナside

力をぶつけるんじゃない。
流れを読み、循環させる。

そうすれば、相手を強くすることもできるし、
守ることもできる。

――ナタリーさんの言葉が、脳裏によみがえる。


訓練は、何度も繰り返してきた。
まさかこんな形で、実践することになるとは思っていなかったけれど。

最近重点的にやっていたのは、
“仲間を強くするための共鳴”。

複数の魔力を束ね、底上げするための技術だ。

でも――今、必要なのはそれじゃない。


そう……
(これは、共鳴を使った浄化)

(壊さず、否定せず、
同じ宝石の響きで、心を正しい場所へ戻す)

(魔宝石に、直接語りかける)

浄化とは、断つことではない。

壊すことでも、押さえつけることでもない。

同質の宝石は、刃を介さずとも響き合い、
心の歪みを正しい位置へ戻す。

私は剣を握る。

柄に嵌め込まれた宝石が、
淡く、静かに光を帯びた。

(ラピスラズリ……)

私の剣の宝石。
誓いと理性を宿す、蒼の石。

そして、目の前にある――
歪んだ感情を溜め込んだ、魔女の雫。
だけど、水中が驚くほど穏やかだ。
ディランの魔力を感じる。
さすがだ。一人じゃない…そう思えるだけでこんなに心強い。

(同じ“宝石”なら……)

そっと魔力を流し込む。

(響いて)

ラピスラズリの光が、水中で広がる。
柔らかく、しかし確かな意思を持って。

魔女の雫が、震えた。

拒絶ではない。
戸惑いの揺れ。

(大丈夫……戻れる)

私は心を澄ませ、
石の奥に溜まった歪みへと語りかける。

誰かの記憶…
嫉妬
失恋…叶わなかった願い。


それらを否定しない。

ただ、正しい位置へ。

蒼い光と、黒く濁った輝きが、
ゆっくりと重なり合う。

――カン、と。

水中で、小さな音が響いた。

それは、壊れる音ではなく。

整う音だった。

魔女の雫から、黒い靄がほどけていく。
絡まっていた呪いが、静かに、静かに溶けていく。