魔法探偵、リセ!

「ひだまり喫茶店、ただいま開店!」
ガラガラとシャッターを押し上げると、雲ひとつない真っ青な空が広がっていた。
「今日は久々の快晴ですね」
カウンターの奥から、銀髪を一つにまとめた男の子―――ネオが歩いてくる。
「いや〜、今日は絶好の探偵日和だね!」
「わざわざ探偵するのに、喫茶店まで作る必要なかったのでは?」
ネオが不思議そうに首を傾げた。
「だって!探偵が事件の情報を集めるのは喫茶店!ってアニメでやってたんだよ!?」
「あぁ......そういえば、リセは形から入るタイプでしたね」
「リっちゃん、課題もちゃんとしようね......」
近くにいた水色髪の男の子―――メモがグラスを吹きながらこっちを振り返った。
「うっ......」
(課題......課題なぁ......)
その時、メモが足を引っ掛けて転んでしまった。
「あっ!」
「だ、大丈夫!?」
「うっ......うぅ......」
メモに駆け寄ると、床に座り込んで泣いている。
床には散らばるガラス片。
「触らないで下さい!」
ネオがハッとして叫ぶ。
ほうきを持って来て、ガラス片を一箇所に集めていると、泣き止んだメモが立ち上がる。
「これ、直しておくね.......」
メモは少し赤くなった目をこすりながら、カウンターの内側に回り込んだ。
青白い淡い光がガラス片を包み込むと、あっという間にガラス片は元のグラスに戻った。
「ありがとう、メモ!」
「僕が壊しちゃったから......僕が直したいんだ」
私は、つやつやに元通りになったグラスをまじまじと見つめた。
さっきまで粉々だったのに、ひび一つない。 光の反射を受けて、普通に輝いている。
「やっぱ、魔法って便利〜!」
思わず本音が漏れる。
ネオとメモは互いに顔を見合わせ、少しだけ困った顔をした。
「くれぐれも、魔法を使ってるところを人間に見られないでくださいね」
「バレたら停学......だったよね......」
「我々は精霊なので元の姿に戻ることもできますが......リセはくれぐれも気をつけてくださいね」
「はーい」
そう。私は魔法学校の課題の為に人間界に来たのだ!二人は私のお目付け役。
ネオは虫メガネ。
メモはメモ帳。
本来の姿は、私が愛用している探偵道具の精霊で、小学生の時に学校の授業で生み出したんだ〜。
つまり、使い魔ってわけ!
私達は『ひだまり喫茶店』と書かれた深緑色のエプロンを着て、カウンターに立った。
改めて店内を見渡し、大きく深呼吸する。
(この町で、やっと憧れの探偵になれるんだ!!)
私が探偵を好きになったきっかけ、それは....小さい頃にテレビで見た『探偵魔法使いメグミ♡』の主人公のメグミに憧れたからなんだ〜!
どんな時でも慌てずに事件をぱぱっと解決し、魔法に頼らず謎を解いていくのが超格好良くて!!
推しに想いを馳せていると、メモがエプロンの紐を引っ張ってきた。
「どうしたの?」
「あ、あ......僕、お客さんの接客できない......」
「あー......」
確かにメモは人見知りだ。さっきだって、転んだだけで泣いちゃったくらいだし。
「だ、大丈夫だよ!最初は注文聞くだけ!『いらっしゃいませ』って言って、料理運ぶ!」
「笑顔……」
メモの口元がぎこちなく上がる。ひきつってる。
完全に怪しい。
ネオがため息をついた。
「リセ。接客マニュアルを作ったのでは?」
「……あ」
ネオの言葉で昨日、勢いで書いた『ひだまり喫茶・完璧接客マニュアル☆』の存在を思い出す。
「メモ!これ読めば大丈夫!」
カウンター下からノートを取り出す。オリジナルメニューのレシピから接客方法まで、幅広い内容を昨日徹夜で書いた。
「大丈夫、大丈夫。メモならきっと大丈夫!」
「む、無理だよぉ......」
メモがノートを握りしめながら目に涙を浮かべる。
「え、あ、ちょ...メモ、えぇっと......あ、じゃあ買い出しお願い!近くのスーパーで食材とか買ってほしいんだ〜」
「はい!」
パァァァと効果音が付きそうな笑みを浮かべる。メモはメモ帳の精霊だからか、とても記憶力が良いんだ!
「じゃあ、パスタとケチャップと牛乳とキャベツお願い!」
「任せてください!!」
お財布を持って勢いよく飛び出したメモ。
(大丈夫かなぁ.......)
店内に、しん、とした静けさが戻り、ほっと一息。
「リセ」
「ど、どうしたの!?」
メモが顔面蒼白で私を呼ぶ。
「メモに、予算を伝えましたか?」
「......あ」
ネオの表情がさっきより色を失っていく。
「レシートを貰うよう、言いましたか?」
「......」
「どこのスーパーか、把握していますか?」
「......あぁぁ」