試験官の誘導で、ぞろぞろと二次試験の会場ーー第二演習場へと移動する。
長い廊下を渡って、靴を履き替え、外に出た。
巨大な演習場は、野生動物たちも生息する一般人が入ると危険な森だ。
演習場の前で整列し始める受験者たち。
月とココちゃんとは「ペアを見つけるから」と別れた。
後ろに気配を感じて振り向く。
「永久さん!」
後ろを取られたのは初めてだった。
「まさか、ペアになるとはな」
無表情の永久さんが歩み寄ってきて、隣まで来てピタッと止まる。
「永久さん、1000番…」
ギリギリだと思い、思わず声に出てしまった。
「あ…」と漏らして口を手で塞ぐ。
「1000番ってなんのことだ?」
通過順位はみんな知らないのだからこの発言はまずい。
「いえ、なんでもない……です。よろしくお願いします」
ーーゴオオオオッ。
演習場の扉が開き、全員が音の鳴る方を見た。
扉の前には、細い目の白衣を着た試験官が、口元にうすい笑みを浮かべている。
室内で案内してくれた試験官とは違う人だ。
あの試験官、気味が悪いな。
「これより、二次試験の内容を説明する。集合しなさい」
永久さんとともに、教官の前に移動する。
「二次試験は、この演習場で行われる。場内は、鳥やうさぎなど森の小さな生き物だけでなく、多少凶暴な動物も生息する。むやみやたらに傷つけるようなやつは即失格だ。ただし、君たちに被害を加えるようであれば撃退して構わない」
周りの人達がごくんと息を呑んで目を見合わせている。
まあ、私はクマやイノシシの撃退なら問題ない。
昔、お祖父様に「修行だ!」と山に置いて行かれて、一週間過ごしたことがある。
当時は、本気で殺す気かと思ったが。
永久さんも、動じていないようだ。
「制限時間は4時間。演習場に放たれた宇宙生命体の潜む隕石を破壊し、ポイントを獲得してもらう。隕石の種類は3種類。小型、中型、大型だ。ポイントをより多く集めた上位のペアが三次試験に進む」
「小型、中型、大型で獲得ポイントが違うってことか…」
「大型って結構やばくない?」
周りがザワザワし始める中、記憶を呼び起こした。
(宇宙生命体レベル:大型、中型、小型、雑魚の順で弱)
「大型を破壊すれば高いポイントがもらえるが、破壊の難易度は自ずと高くなる。大型の宇宙生命体は君たち候補生が4名以上で倒すことができるレベルだ」
「「「えええええ……」」」
皆、驚きを隠せない様子だな。
普通の候補生で4名以上じゃないと倒せないレベル……。
そういうことなら、私ひとりでもなんとか倒せるレベルということか。
「よ、4人……。ペアで行動するのに、他のペアと協力するしかないのか」
「ちょっと怖いかも……」
受験者の私語を無視して、試験官は続ける。
「小型をたくさん破壊してポイント数を稼ぐという方法もあるだろう。ただ、大型のポイントはかなり高い。小型と大型、ポイント差は明かさないが、4時間の中でどうを稼ぐか、よく考えるように。以上。質問はあるか」
「はーい! 試験番号0256、赤坂登志でーす! ペアで行動すると思うんすけど、4人、あーつまり2ペアで大型を一つ倒した場合って、ポイントはどうなるんすかー」
赤坂登志ーー聞いたことのある名前。
記憶から呼び出そうとすると、永久さんが隣で呟く。
「確かに……他のペアと協力した場合、どうなるか、気になるな」
ひと呼吸おいて、試験官が質問に答えた。
「ポイントは、連携したペアとペアに均等に分配する。3ペアなら三分割、4ペアから四分割だ。」
「ほーい、あざまーす」
チャラチャラした態度、赤い髪、キリッとした目。
赤坂登志ーートシ。
(人物データ照合:円の舎弟)
幼稚園の頃、円に突っかかっていつも相手にされてなかった一学年上の男子だ。
円に「トシ、うるさい!」とよく言われていたな。
「他にあるか? なければ、開始するから、白線に沿って並べ」
ガヤガヤしながら、白線の前に移動する受験者たち。
「俺らも行こう」
首を縦に振り、永久さんに続く。
「よーし! 4時間な! 壊せば壊すほど勝ち……って思うじゃん?」
後ろの声に思わず振り返る。
ーートシか。
ポキポキと腕を鳴らしながら、ココちゃんの周りをフラフラしている。
ココちゃんのペアはトシなのか。
「ココ! 実は罠なんだな〜、これが!」
「最初から分かってるわ」
ココちゃんが冷静に対応していた。
「話がはえーな! この試験に合格するには“大型”の破壊はマストじゃない。4時間で何点取れるかだな」
「大型は、壊すのに時間かかる。例えば、60分かけて一体がいいところね。悪くはないけど、効率的ではないね」
「中型一択だな」
トシとココちゃんが横を通り過ぎ、立ち止まっていたことに気づく。
まずい、気を取られてしまった……。
でも、このふたりの言う通りだ。
通常、中型なら15分で一体倒せるだろう。
となると、1時間で四体倒せるわけだ。
ポイント数が明かされないにしても、大型を一体倒すより、中型をたくさん倒した方が効率的だ。
このふたり、相当やるな。
トシはわざと点数を抑えたタイプだろうか。
ココちゃんとペアということは、999番で通過しているのだと考えられる。
「おい」
永久さんに声をかけられて「すみません……」と足早に追いつく。
受験者が並び終えると、試験官が嫌な顔つきでニヤっと微笑んだ。
「はじめ!の合図で一斉に演習場に入ってもらう。いいな?」
ヘビのようなねっとりした声。
なんだろう、この違和感。
敏感になりすぎているだけならいいが。
「「「「「はい!」」」」」
勢いよく返事をする受験者たち。
いや、今は試験に集中しよう。
いよいよ、二次試験の始まりだ。
10秒ほど、しんと静まり返る。
「……はじめ!」
周りが一斉に走り出す。
永久さんと私は静かに前に進んで演習場へ入った。
きっと考えていることは同じだな。


