アースシールド♾️

  月から告白され、永久さんがペア変更の提言をしてから1週間。
 月とはあれ以来、すれ違ったままーー。
 どうしているのだろう。

「…ねえ…糸ちゃん? 聞いてる?」

 朝。
 部屋で支度をしていると、ココちゃんが心配そうな顔をしている。

「…ごめん、聞いていなかった。何の話だ?」

「最近ぼーっとしてるよ? ペアのこと気にしてるの? それなら、大丈夫だから。金縄さんでも月くんでもやるべきことは変わらないんだし」

 龍と契約した次の日。
 ココちゃんと月、永久さんと私にペアが変更された。
 ココちゃんは、ペアの変更を「どちらでも」とドライに考えているようだった。
 それに……変更を申し入れた永久さん本人は何を考えているんだ。
 どうやって、先生たちを丸め込んだのだろう。
 月とのことがあって、永久さんの提言に同行する気にはなれなかったからすぐにお断りをした。
 ペア変更はよくあることだと聞くが、私はペアの変更は納得いかないと神先生に話した。
 「まあちょっとね〜」と言われ、納得いかないまま1週間も経ってしまった。
 そして……あの頑固な月でさえも変更を受け入れていた。
 あんなことがあったからかもしれないが。

ーーピーンポーンパーンポーン。

 寮内にアナウンスが響き渡る。

《黒羽月、紫村ココ、金縄永久、天城糸。至急、講師室まで来なさい。繰り返す、黒羽月……》

 突然の呼び出しに、ココちゃんと目を合わせた。

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 講師室の前で、永久さんと月と合流する。
 月とはこの1週間、目も合っていない。

「お疲れさま。金縄さんは3日ぶりくらい? ペアじゃないと座学の日しか会わないね」

「ああ。……紫村……ペアの変更、悪かったな」

「ううん。何度も謝らないでよ。永久くんの感覚、何となくわかるから。糸ちゃんの方がしっくりくるんだよね?」

 深く頷いた永久さん。
 月は永久さんの隣で黙っている。

「……月」

 月に話しかけようとすると、後ろからチャラい声が聞こえてくる。

「よ〜! 4人、おそろいだね〜。入って入って〜」

 神先生、登場。
 タイミング……。
 ココちゃんと永久さんは、講師室内にいないんかい!と突っ込みたい顔をしている。
 そんな中、間髪入れずに月が質問した。

「神先生、任務か?」

 神先生は「まあまあ、中で話そう〜」と逸らしながら、我々を講師室の中へと誘った。

°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。

 講師室には先生たちの席があって、小学校の職員室と雰囲気が似ている。
 鶴先生が優雅にティーカップで紅茶を飲んでいた。

 「あら、みんなお揃いね」

 至急と言われて急いで来たが、先生たちは切羽詰まっていないようだ。

 「奥の隊長室に行くから、みんな着いてきて〜」

 神先生を先頭に奥の隊長室の看板を目掛けて進む。
 隊長室……。
 父はここにいたのかーー。
 はっ……無意識に父の残像を探してしまっていた。
 ありとあらゆる感情が背中に覆い被さる。

「大丈夫だ」

 永久さんが私の背中をぽんっと優しく叩いた。
 それだけで、心がふわっと軽くなる。

「はい」

 永久さんに微笑みかけ、隊長室へ、力強く足を進めた。

°。°。☆°。°。☆°。°。°。°。☆°。°。☆°。°。

「失礼します」

 歴代隊長の写真が並ぶ隊長室。
 入室すると、隊長と、そして、なぜかお祖父様がいた。

「糸、久しぶりだな。人間らしくなったな」

 いつものように腕を組んで、私の顔を見たお祖父様。
 私のことを機械かなんかだと思っていたのか……?

「お祖父様……お久しぶりです」

「……糸ちゃんのお祖父さん?」

 ココちゃんがバッとこちらを向いたので「ああ…」と小さく答えた。

「おい、糸。お祖父さんも組織の関係者なのか?」

 永久さんにはお祖父様は話していなかった。
 目を見開く永久さんに「お祖父様は今は第一線から退いていますが、組織を立ち上げた人です」とこそっと伝える。
 永久さんはさらに驚いたようで、固まっている。

「月も久しぶりだな。随分成長したようだ」

「……お久しぶりです」

「はっはっは! 月は敬語が使えるようになったか!」

 月は「…うるせ」と呟いている。
 そうだ、お祖父様と月は、昔からソリが合わないんだったな。

「……糸の隣は、紫村くんの娘さんだね?」

「はい。はじめまして。紫村ココと申します」

 ココちゃんが礼儀正しく敬礼をした。

「君の契約動物は熊か。いいな、ぴったりじゃないか」

「恐れ入ります」

 ココちゃんは熊と契約したのか。
 お祖父様は、隊員の顔を見ただけで、契約生物がわかると言っていたが、本当だったのだな。

「そして、君が糸のペアかい? ペア変更の提言をしたそうじゃないか。はっはっは! いいな、嫌いじゃない。恭と同じような目をしている。白カラスか…何とも珍しいな」

「金縄永久です」

「君は山に住んでいたのかい? 鳥たちが君のことを心から信頼しているようだ」

 お祖父様は窓際に移動して、楽しそうに飛び回る鳥たちを見た。

「……第一次宇宙戦争で家族を亡くしました。それからは山で暮らしています。鳥は…唯一の友達でした」

 試験の日にどこに住んでいるか聞いたとき、ハチコクヤマって言っていたが……山に住んでたのか?
 通りで……記憶内を呼び起こしても町名でヒットしないわけだ。
 待て待て待て。
 山に住んでたって…家は…?
 永久さんは、何も言ってなかったが。

「そうか。辛いことを思い出させたな」

「いえ…」

 一気にお祖父様のペースに持っていかれる室内。
 隊長は特に何も言わず、お祖父様が話し終わるのを待っているようだった。
 お祖父様は、次に神先生と鶴先生の前に立つ。

「神くん、鶴くん、久しぶり。元気かい?」

「「はっ。お久しぶりです」」

 先生たちが気をつけをし直す。

 「はっはっは! こっちも成長したものだな。恭と雅の下にいたときは、あんなやんちゃだったのに! 今となっては先生か」

「お恥ずかしいです」と鶴先生。
「雅先生がヤンチャの間違いですよ!」と神先生。

 待てーー。
 父と母の下にいたということは、ふたりの写真に神先生も鶴先生も写っているに違いない。
 もしかして、父の生徒が鶴先生で、母の生徒が神先生なのか…?

(フォトアルバム:アースシールド♾️先生時代)

 記憶を呼び起こすと、うっすらと面影のある神先生と鶴先生がヒットした。
 幼い写真だったから気づかなかったわけだ。

「……昔話が過ぎたな。本題に入ろう。今日、皆に来てもらったのは十二凶絡みでな。神班、鶴班の計6人で任務にあたってもらう」

 お祖父様の真剣な表情。
 "十二凶"という言葉に全員の体が強張った。

「鈴森村という、その昔、鈴づくりで財を成していた村がある。そこが宇宙人に占拠されていると報告があった」

「宇宙人であれば、十二凶とは関係がないのでは?」

 すかさず口を挟むと、お祖父様は私を一瞥してから、手に持っていた報告書に目を下げた。

「村から逃げてきた者が、村を占拠した宇宙人のリーダーが"子(ね)"と名乗っていたというのだーー」

「十二支のコードネームか…」

「コードネーム?」

 永久さんが私の独り言に反応する。

「十二凶のメンバーは、コードネームに十二支を使っている。子、牛、寅、卯、辰、巳、午、未、申、酉、戌、亥……というふうに」