ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用なふたりが、東京で0センチメートルになるまで。~

 静まり返った部屋の中、重なり合った心音だけが鼓膜を打っていた。

 しばらく強く抱き合った後、祥ちゃんがゆっくりと身体を離し、じっと私の顔を見つめてくる。

(……どうしよう。一体、何から始めたらいいんだろう……?)

 経験値も知識もゼロに等しい私は、頭の中でぐるぐると考えを巡らせていた。

(……キスから? それとも言葉?)

「…………」
「…………」

 張り詰めた空気と彼からの熱い視線に、思わず身を固くする。

 しかし、次に彼の口から出たのは、思いもよらない一言だった。

「……コンビニとか、行く?」

「……え?」

 私はぽかんと彼を見上げ、「あ……ハイ」と間抜けな返事をしてしまった。

 ◇

 彼の気遣いで、二人で夜のコンビニへとやってきた。
 冷たい外気に触れて冷静になって気づいたけれど、私は今日、メイク落としや化粧水など、お泊まりに必要なものを一切持ってきていない。

「シャンプーも、男物しかなくて……」と彼に申し訳なさそうに言われたけれど、あの祥ちゃんの香りの元になっているものかと思うと使ってみたくなり、トラベルセットのシャンプーは買わずに彼のものを借りることにした。

 陳列棚を回る彼は、いつもよりずっと静かで、どこか落ち着かないような、でも優しい雰囲気を纏っている。
 彼が持つ買い物かごには、追加の麦茶と、私が好きなメーカーのアイスティー、それに明日の朝ごはん用の食パンが入っていた。

 私の買うメイク落としシートなども全部そこに入れて、彼がレジで支払いをしてくれた。

「あの、私のものもいっぱい買ったし、お金……」
 コンビニを出て財布を取り出そうとすると、祥ちゃんは「美絵も前夜祭のもの、たくさん用意してくれたし」と微笑みながら私の手を優しく制した。