◇
最後のババ抜きは、白熱した心理戦になった。
残り二枚。僕の指が、彼女の持っている左側のカードにかかると、彼女の眉がぴくりと動いた。
(あ、こっちがジョーカーか……?)
確信を持って右側のカードに手を移すと、今度は彼女が「あ……」と声を漏らし、目に見えて不安そうな、捨てられた子犬のような顔をして僕を見上げてくる。
そのあまりの可愛さに、僕の冷静な判断力は一瞬で霧散した。
「……いや、やっぱりこっち」
結局、最初にかかっていた左側のカードを引き抜くと――。
そこには、不敵に笑うジョーカーの姿があった。
「あー! 私の勝ち!」
彼女がソファにひっくり返って、子供みたいに手足をバタバタさせて喜んだ。
ひとしきり盛り上がった後、僕もソファに座って伸びをした。
ふと壁の時計に目をやると、23時を回っていた。
楽しい時間は、残酷なほど早く過ぎる。
(そろそろ、か……)
彼女を見ると、時計を見た僕の視線に気づいたのか、先ほどまでの楽しげな表情が、目に見えて強張っている。
「あ……」と僕は小さく声を漏らす。
(送っていくね、と帰りの準備を促すべきか。それとも……)
迷う僕の重たい空気を切り裂くように、彼女が唐突に僕の胸に抱きついてきた。
「……私……」
彼女は僕の胸に顔を埋めたまま、絞り出すような声で続ける。
「私……プレゼント、持ってきてて。0時になる瞬間に……渡したい」
0時。
その時間はもう、終電はない。
つまり、彼女が今ここで口にしたのは……そういう意味だ。
心臓の鼓動が――急激に速度を上げる。
「……それって……明日まで、一緒にいたいってこと?」
確認するように、なるべく静かに、噛み締めるように聞いた。
腕の中の小さな頭が、こくり、と一度深く頷く。
「……うん。でも……それだけじゃなくて……」
途切れ途切れの、けれど一生懸命に紡がれたその言葉。
「私……祥ちゃんとなら、何も怖くないから……」
彼女がどれほどの勇気を持ってそれを口にしたか、少し震えている肩が物語っていた。
「…………」
僕は黙って、彼女の細い背中に手を回した。
大切にしたいから。傷つけたくないから。
そう思って守ってきた「安全な距離」を、彼女が自ら踏み越えてくれた。
胸元に耳を寄せている彼女に、きっと僕の心音は丸聞こえだ。
せめて、火照る顔を落ち着かせようと、僕は静かに大きく深呼吸をした。
「……じゃあ……今日はこのまま……一緒にいよっか」
僕の問いに、彼女はゆっくりと顔を上げた。
揺れる瞳を真っ直ぐに僕へと向ける。
そこには、僕を信じ切っている、一人の女の子としての強い決意が宿っていた。
「…………うん」
もう一度、今度は先ほどよりもずっと強く、慈しむように抱きしめると、彼女の心音も伝わってきた。
静寂の中で、重なり合った二つの心臓の音が、お互いの体温を通じて激しく共鳴していた。
最後のババ抜きは、白熱した心理戦になった。
残り二枚。僕の指が、彼女の持っている左側のカードにかかると、彼女の眉がぴくりと動いた。
(あ、こっちがジョーカーか……?)
確信を持って右側のカードに手を移すと、今度は彼女が「あ……」と声を漏らし、目に見えて不安そうな、捨てられた子犬のような顔をして僕を見上げてくる。
そのあまりの可愛さに、僕の冷静な判断力は一瞬で霧散した。
「……いや、やっぱりこっち」
結局、最初にかかっていた左側のカードを引き抜くと――。
そこには、不敵に笑うジョーカーの姿があった。
「あー! 私の勝ち!」
彼女がソファにひっくり返って、子供みたいに手足をバタバタさせて喜んだ。
ひとしきり盛り上がった後、僕もソファに座って伸びをした。
ふと壁の時計に目をやると、23時を回っていた。
楽しい時間は、残酷なほど早く過ぎる。
(そろそろ、か……)
彼女を見ると、時計を見た僕の視線に気づいたのか、先ほどまでの楽しげな表情が、目に見えて強張っている。
「あ……」と僕は小さく声を漏らす。
(送っていくね、と帰りの準備を促すべきか。それとも……)
迷う僕の重たい空気を切り裂くように、彼女が唐突に僕の胸に抱きついてきた。
「……私……」
彼女は僕の胸に顔を埋めたまま、絞り出すような声で続ける。
「私……プレゼント、持ってきてて。0時になる瞬間に……渡したい」
0時。
その時間はもう、終電はない。
つまり、彼女が今ここで口にしたのは……そういう意味だ。
心臓の鼓動が――急激に速度を上げる。
「……それって……明日まで、一緒にいたいってこと?」
確認するように、なるべく静かに、噛み締めるように聞いた。
腕の中の小さな頭が、こくり、と一度深く頷く。
「……うん。でも……それだけじゃなくて……」
途切れ途切れの、けれど一生懸命に紡がれたその言葉。
「私……祥ちゃんとなら、何も怖くないから……」
彼女がどれほどの勇気を持ってそれを口にしたか、少し震えている肩が物語っていた。
「…………」
僕は黙って、彼女の細い背中に手を回した。
大切にしたいから。傷つけたくないから。
そう思って守ってきた「安全な距離」を、彼女が自ら踏み越えてくれた。
胸元に耳を寄せている彼女に、きっと僕の心音は丸聞こえだ。
せめて、火照る顔を落ち着かせようと、僕は静かに大きく深呼吸をした。
「……じゃあ……今日はこのまま……一緒にいよっか」
僕の問いに、彼女はゆっくりと顔を上げた。
揺れる瞳を真っ直ぐに僕へと向ける。
そこには、僕を信じ切っている、一人の女の子としての強い決意が宿っていた。
「…………うん」
もう一度、今度は先ほどよりもずっと強く、慈しむように抱きしめると、彼女の心音も伝わってきた。
静寂の中で、重なり合った二つの心臓の音が、お互いの体温を通じて激しく共鳴していた。


