ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用なふたりが、東京で0センチメートルになるまで。~

 ◇

 アパートに着き、祥ちゃんが鍵のサムターンを回す。

 彼の部屋に入るのは、今日が三回目。
 重たい金属音とともにドアが開くと、真っ暗な玄関の奥から、ふわりと「彼の匂い」が冷たい空気と入れ替わるように鼻腔をくすぐった。

 爽やかなマリン系のような、それでいて日向のシーツのような温かさも混じった、深呼吸したくなる匂い。
 付き合う前は香水をつけているのかと思っていたけれど、最近聞いたら「柔軟剤とシャンプーの匂いじゃないかな」と笑っていた。
 その生活感が絶妙に混ざり合った香りに包まれるだけで、なんだかドキッとしてしまう。

 祥ちゃんの部屋は1Kで、すっきりとしている。
 黒のソファベッドに、スチールの脚がついた折りたたみのローテーブル。
 向かいには小さなテレビ台が置かれ、隅にはアウターを掛けるシンプルなポールハンガーが立っている。
 モノクロで統一された、必要最低限のものしかない男の子らしい空間。

 私はローテーブルの前で立ち膝をしながら、バッグからお菓子やジュースをせっせと並べ始めた。
「麦茶、いる?」
 キッチンから顔を出した彼が、冷蔵庫の扉に手をかけながら尋ねてくる。
「いる!」

 元気よく答えた後、私はハッとして、弾んだ声を投げかけた。

「あ! 祥ちゃん、麦茶をテーブルに置いたら、そのまま目を閉じて、テーブルの前で待ってて!」
「……え? 目?」
 彼は不思議そうに眉を寄せ、瞬きを繰り返した。
「うん! 薄目開けちゃダメだからね」
 私が念を押すと、彼は小さく吹き出し、「わかったよ」と優しく了承してくれた。

 グラスに注がれる冷たい麦茶の、トクトクという涼しげな音が静かな部屋に響き渡る。

 麦茶を運んできてくれた彼がテーブルの前で目を閉じたことを確認すると、ワクワクしながらバッグの奥を漁り始めた。