授業で出た課題図書の活字を目で追っていた僕だが、内容は全く頭に入っていなかった。
怪我で自ら投げることを諦めた高校時代。僕は父のツテで、地元の少年野球チームのコーチを手伝うようになった。
最初は、行き場のない野球への気持ちを向ける場所のようなものだったけれど、子供たちと向き合ううちに、だんだんと教えること自体が面白くなっていった。
東京に出てきてからも、当時の繋がりでコーチをさせてくれる今のチームを見つけることができた。
まだ手伝い始めたばかりなのに、監督は僕の経験を信頼してくれて、たまに一部の練習メニューを任せてくれたりする。
今週末の練習は、どう組み立てるか。そんなことばかりをぼんやりと考えていた時だ。
「――瀬川くん!」
聞き覚えのある、鈴を転がしたような声が耳に届いた。
ビクリと肩が跳ねそうになるのを必死で堪え、努めてゆっくりと顔を上げる。
逆光の中、ふわりと揺れる栗色の髪。
少し息を切らして立っている森さんが、そこにいた。
窓から差し込む午後の日差しを背負って、彼女の輪郭がキラキラと光っている。
「……森さん。学校で会うの初めてだな」
平静を装って声を返したが、心臓は早鐘を打っていた。
(……今の、声上ずってなかったか? 落ち着け、俺。ただの同級生だ。偶然会っただけだ)
自分に言い聞かせるが、彼女が「隣……大丈夫?」と首を傾げた瞬間、心拍がさらに加速するのを感じた。
「あ、うん。どうぞ」
「ありがとう」
彼女が椅子を引いて座る。
ふわり、と石鹸の香りが鼻をかすめた。
色々なメニューの匂いが充満しているカフェテリアで、彼女の周りだけ空気が澄んでいるように感じた。
怪我で自ら投げることを諦めた高校時代。僕は父のツテで、地元の少年野球チームのコーチを手伝うようになった。
最初は、行き場のない野球への気持ちを向ける場所のようなものだったけれど、子供たちと向き合ううちに、だんだんと教えること自体が面白くなっていった。
東京に出てきてからも、当時の繋がりでコーチをさせてくれる今のチームを見つけることができた。
まだ手伝い始めたばかりなのに、監督は僕の経験を信頼してくれて、たまに一部の練習メニューを任せてくれたりする。
今週末の練習は、どう組み立てるか。そんなことばかりをぼんやりと考えていた時だ。
「――瀬川くん!」
聞き覚えのある、鈴を転がしたような声が耳に届いた。
ビクリと肩が跳ねそうになるのを必死で堪え、努めてゆっくりと顔を上げる。
逆光の中、ふわりと揺れる栗色の髪。
少し息を切らして立っている森さんが、そこにいた。
窓から差し込む午後の日差しを背負って、彼女の輪郭がキラキラと光っている。
「……森さん。学校で会うの初めてだな」
平静を装って声を返したが、心臓は早鐘を打っていた。
(……今の、声上ずってなかったか? 落ち着け、俺。ただの同級生だ。偶然会っただけだ)
自分に言い聞かせるが、彼女が「隣……大丈夫?」と首を傾げた瞬間、心拍がさらに加速するのを感じた。
「あ、うん。どうぞ」
「ありがとう」
彼女が椅子を引いて座る。
ふわり、と石鹸の香りが鼻をかすめた。
色々なメニューの匂いが充満しているカフェテリアで、彼女の周りだけ空気が澄んでいるように感じた。


