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「他の女の人にくっつかれるのが、単純にイヤなだけ!」
そう言い捨てて、真っ赤になった顔を隠すように僕の肩に頭をすり寄せてきた美絵。
その破壊的な可愛さに、僕の理性の防波堤は音を立てて崩れ去りそうになった。
肩に触れる柔らかな髪の感触と、少しだけ震えている彼女の体温。
夏の合宿の夜、夢現の中で彼女がこうして寄りかかってきた時の記憶が、鮮やかにフラッシュバックする。
あの時は、触れることすら躊躇われたけれど。
今は、僕の恋人として、僕の肩に甘えてくれている。
「……美絵って結構、甘えん坊だよな」
震える声を抑え込み、なるべく平坦なトーンを装って呟く。
すると、肩に乗せた頭が少しだけ動き、彼女が下から不安そうに僕を見上げた。
「……子どもっぽくて、イヤ?」
イヤなわけがない。
「いや、そのままがいい」
(めちゃくちゃ可愛いし)という本音は、さすがに胸の内に留めておいた。
その言葉を聞いてホッとしたような彼女の瞳は、なぜか少しだけ潤んだように見えた。
そしてその瞳が、僕を真っ直ぐに捉えて離さなくなった。
オレンジ色の間接照明に照らされた彼女の唇が、ほんの少しだけ開く。
引力が生まれたように、僕の身体は自然と彼女の方へと傾いていた。
吸い込まれてしまうように、ゆっくりと顔を近づける。
彼女のまつ毛が微かに震え、やがて、彼女もそうしたかったかのように、静かにその美しい瞳を閉じた。
今はもう、自制する理由を見つけられなかった。
静まり返った秋の夜の部屋で、僕たちは、六年の月日を経てようやく重なり合ったふたつの弧を、そっと結び合わせた。


