ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用なふたりが、東京で0センチメートルになるまで。~



 ◇

「他の女の人にくっつかれるのが、単純にイヤなだけ!」

 そう言い捨てて、真っ赤になった顔を隠すように僕の肩に頭をすり寄せてきた美絵。
 その破壊的な可愛さに、僕の理性の防波堤は音を立てて崩れ去りそうになった。

 肩に触れる柔らかな髪の感触と、少しだけ震えている彼女の体温。
 夏の合宿の夜、夢現の中で彼女がこうして寄りかかってきた時の記憶が、鮮やかにフラッシュバックする。

 あの時は、触れることすら躊躇われたけれど。
 今は、僕の恋人として、僕の肩に甘えてくれている。

「……美絵って結構、甘えん坊だよな」
 震える声を抑え込み、なるべく平坦なトーンを装って呟く。
 すると、肩に乗せた頭が少しだけ動き、彼女が下から不安そうに僕を見上げた。
「……子どもっぽくて、イヤ?」
 イヤなわけがない。
「いや、そのままがいい」
(めちゃくちゃ可愛いし)という本音は、さすがに胸の内に留めておいた。
 その言葉を聞いてホッとしたような彼女の瞳は、なぜか少しだけ潤んだように見えた。

 そしてその瞳が、僕を真っ直ぐに捉えて離さなくなった。

 オレンジ色の間接照明に照らされた彼女の唇が、ほんの少しだけ開く。
 引力が生まれたように、僕の身体は自然と彼女の方へと傾いていた。
 吸い込まれてしまうように、ゆっくりと顔を近づける。
 彼女のまつ毛が微かに震え、やがて、彼女もそうしたかったかのように、静かにその美しい瞳を閉じた。

 今はもう、自制する理由を見つけられなかった。

 静まり返った秋の夜の部屋で、僕たちは、六年の月日を経てようやく重なり合ったふたつの弧を、そっと結び合わせた。