ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用な二人が、東京で0センチメートルになるまで~

 グラウンドの端で、私は夢中になってその光景を見つめていた。

「肘、もう少し上げてみて。あ、そう。その角度」
 瀬川くんが、ボールの握り方を一人の少年に教えている。
 自分の大きな手で少年の小さな手を包み込むようにして、目線を合わせるために片膝をついている。
 その横顔は驚くほど優しくて、見ているこちらの胸が締め付けられるほどだった。

(あんな顔で、子どもたちに接してるんだ……)

 私に向ける笑顔とも、友達といる時の顔とも違う。
 頼りがいのある、指導者の表情。
 そのギャップに、胸の奥がときめきっぱなしだ。

「じゃあ、一回俺が投げてみるから、フォーム見ててな」
 瀬川くんが立ち上がり、キャッチャー役の子に向かってマウンド付近に立つ。

 その瞬間、私の周りの空気がピタリと止まった気がした。
 ゆっくりと振りかぶる。

 中学時代、遠くから何度も何度も見つめていた、あのしなやかなフォーム。
 肩を壊しているから、もちろん全力ではない、軽く、力みのないフォームだけれど。

 指先から放たれたボールは、糸を引くような軌道を描いて、キャッチャーミットに「パーン!」と心地よい音を響かせて収まった。

「うおー! すっげー!」
「コーチ、今の球はやい!」
 少年たちが目を輝かせて歓声を上げる。
 瀬川くんは「いやいや、しょっちゅう見てるじゃん」と照れくさそうに笑った。

 けれど、私の目頭は不意に熱くなっていた。
 もう二度と見られないと思っていた、彼がマウンドでボールを投げる姿。
 全力じゃなくても、その姿はやっぱり、私の世界で一番かっこいい人だった。


 試合形式の練習が始まると、少年たちの真剣な姿にも心を打たれた。

 内野ゴロに飛びついて、盛大に転んで泥だらけになっても、すぐに立ち上がって一塁へボールを投げる。
 三振して悔し涙を拭いながらベンチへ戻る子に、瀬川くんがポンと肩を叩いて励ましている。

 汗と泥の匂い、土の匂い。
 一生懸命な彼らの姿と、それを温かく導く瀬川くんの姿から、目が離せない。

 見学時間はあっという間に過ぎていった。