合宿から二週間が過ぎた、八月下旬の土曜日。
立秋を過ぎたとはいえ、容赦なく照りつける太陽は、アスファルトの表面に陽炎を揺らめかせていた。
東京近郊の駅から十五分ほど歩いた先にある、河川敷のグラウンド。
日傘を持つ手がじっとりと汗ばみ、首筋を伝う雫がオレンジ色のワンピースの襟元へ吸い込まれていく。
微かに川面から吹いてくる風には、水草の青臭さと、乾いた土の匂いが混じっていた。
東京に来てから初めて嗅いだ、懐かしい土手の匂い。
『前に言ってた少年野球の練習、今週末の午後にあるんだけど、もし予定空いてたら見に来ない?』
二週間前、合宿から帰った翌日の朝。
泥のように眠って目を覚ました私を待っていたのは、瀬川くんからのメッセージだった。
合宿でのあの出来事の後、どんな顔をして会えばいいのか悩んでいた私の心は、その短いメッセージを見た瞬間、一気に夏の青空へと舞い上がった。
練習を見に来てもいいと言ってくれたのは、社交辞令だったかもしれないと思っていたけれど。
彼がそれをちゃんと覚えていてくれたこと、そして本当に誘ってくれたことが、たまらなく嬉しかった。
(……あ、見えた)
土手を上りきると、視界が開け、緑色の芝生と茶色い土のコントラストが目に飛び込んできた。
キン、という金属バットがボールを弾く甲高い音と、まだ声変わりしていない少年たちの甲高い声が、ジリジリと鳴る油蝉の声に重なって響いている。
胸の奥で、トクン、トクンと心拍数が跳ね上がるのを感じた。
――二週間ぶりに、会える。
合宿で自覚したばかりの「好き」という感情は、会えない時間の間に、私の中でどうしようもなく大きく育ってしまっていた。
グラウンドの脇には大きなテントがあり、折り畳みベンチがいくつか置いてある。
保護者のお母さまたちが、数人いらっしゃるようだ。
私は日傘を少しすぼめ、「こんにちは」と小さく会釈をしながら、その輪の端っこにそっと混ざった。
視線は自然と、グラウンドの中へと吸い込まれる。
砂埃が舞う中、背番号のついた小さなユニフォームたちが走り回っている。
そして、その中心に。
グレーのキャップを目深に被り、白いTシャツにジャージ姿の彼がいた。
「……っ」
遠くからでもすぐにわかる、広くて真っ直ぐな背中。
ホイッスルを首から下げ、眩しそうに少年たちのプレーを見守っている。
合宿の時に見た、無防備に寝ていた彼とは違う、真剣で、どこか凛とした指導者の顔。
見つけた瞬間、息をするのも忘れるくらい、彼から目が離せなくなった。
立秋を過ぎたとはいえ、容赦なく照りつける太陽は、アスファルトの表面に陽炎を揺らめかせていた。
東京近郊の駅から十五分ほど歩いた先にある、河川敷のグラウンド。
日傘を持つ手がじっとりと汗ばみ、首筋を伝う雫がオレンジ色のワンピースの襟元へ吸い込まれていく。
微かに川面から吹いてくる風には、水草の青臭さと、乾いた土の匂いが混じっていた。
東京に来てから初めて嗅いだ、懐かしい土手の匂い。
『前に言ってた少年野球の練習、今週末の午後にあるんだけど、もし予定空いてたら見に来ない?』
二週間前、合宿から帰った翌日の朝。
泥のように眠って目を覚ました私を待っていたのは、瀬川くんからのメッセージだった。
合宿でのあの出来事の後、どんな顔をして会えばいいのか悩んでいた私の心は、その短いメッセージを見た瞬間、一気に夏の青空へと舞い上がった。
練習を見に来てもいいと言ってくれたのは、社交辞令だったかもしれないと思っていたけれど。
彼がそれをちゃんと覚えていてくれたこと、そして本当に誘ってくれたことが、たまらなく嬉しかった。
(……あ、見えた)
土手を上りきると、視界が開け、緑色の芝生と茶色い土のコントラストが目に飛び込んできた。
キン、という金属バットがボールを弾く甲高い音と、まだ声変わりしていない少年たちの甲高い声が、ジリジリと鳴る油蝉の声に重なって響いている。
胸の奥で、トクン、トクンと心拍数が跳ね上がるのを感じた。
――二週間ぶりに、会える。
合宿で自覚したばかりの「好き」という感情は、会えない時間の間に、私の中でどうしようもなく大きく育ってしまっていた。
グラウンドの脇には大きなテントがあり、折り畳みベンチがいくつか置いてある。
保護者のお母さまたちが、数人いらっしゃるようだ。
私は日傘を少しすぼめ、「こんにちは」と小さく会釈をしながら、その輪の端っこにそっと混ざった。
視線は自然と、グラウンドの中へと吸い込まれる。
砂埃が舞う中、背番号のついた小さなユニフォームたちが走り回っている。
そして、その中心に。
グレーのキャップを目深に被り、白いTシャツにジャージ姿の彼がいた。
「……っ」
遠くからでもすぐにわかる、広くて真っ直ぐな背中。
ホイッスルを首から下げ、眩しそうに少年たちのプレーを見守っている。
合宿の時に見た、無防備に寝ていた彼とは違う、真剣で、どこか凛とした指導者の顔。
見つけた瞬間、息をするのも忘れるくらい、彼から目が離せなくなった。


