ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用な二人が、東京で0センチメートルになるまで~

 バスのドアが開いた瞬間、むせ返るような甘い潮の香りが全身を包み込んだ。

「うわあ! 海だー!」
「あっつ! 日差し痛え!」

 サークルのメンバーたちが、歓声を上げながらバスから降りていく。

 東京の排気ガス混じりの空気とは違う、塩分を含んだ重たくて濃い空気が、髪にペタリと貼り付く。
 空はどこまでも高く、突き抜けるような青色をしていて、白い入道雲が水平線の向こうに湧き上がっていた。
 私の地元は福島の内陸なので、山はあれど、海を見るのはすごく久しぶりだった。

「美絵、早く着替え行こ! 海入りたーい!」
 いずみに手を引かれ、私は民宿の更衣室へと急いだ。

 ◇

 脱衣所の床は、海水浴客が持ち込んでしまう砂で少しジャリジャリとしていて、海の家特有の、ゴザと湿った木の匂いがする。

 私はバッグの底から、新しく買った水着を取り出した。
 淡いミントグリーンの、オフショルダースタイル。
 フリルがついていて、胸元や体型をあまり拾わないデザインだけれど、鏡の前で合わせると、やっぱり布面積の少なさに心細くなる。

「よしっ、可愛い! 美絵、似合ってるよ!」
 着替え終わったいずみは、フルーツ柄の元気なビキニ姿で、くるりと回って見せた。
「ありがとう……でも、やっぱり恥ずかしいかも」
「えー? 肌白いし細いし、出さなきゃ損だって!」
 いずみは笑い飛ばしてくれたけれど、私は自分の二の腕やお腹が頼りなくて、落ち着かない。

 それに、これを瀬川くんに見られると思うと……。
 昨日のメッセージを思い出し、耳が熱くなる。

『似合うと思うよ』

 その言葉は嬉しかったけれど、いざ実物を前にすると、自意識過剰な自分が顔を出す。

「……やっぱり、これ羽織っていく!」
 私は水着の上から、持参していた白のラッシュガードを羽織った。
 薄手のパーカーのような素材で、長袖で、お尻まで隠れるタイプのものだ。
「えー、もったいない! まあ…日焼け対策も大事だし、いっか」
 いずみは苦笑いしながら、私の背中をパンと叩いた。

「さ、行こ! 男子たち、もう待ってるよ!」