ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用な二人が、東京で0センチメートルになるまで~

 瀬川くんをタクシーに乗せて見送った後、私も図書館に戻る気にはなれず、家に帰ることにした。

 大学の最寄り駅までの道を一人で歩く。

 夕暮れの風が、火照った頬を撫でていく。
 彼を支えた時の、腕の重みと、身体の熱さがまだ掌に残っていた。

『頼ってほしい』

 偉そうなことを言ってしまった。
 自分のことすら、よくわかっていないくせに。

 でも、弱っている彼の姿を見た瞬間、胸の奥がざわついて、どうしても放っておけなかった。

 特別な存在になりたいとか、そんなおこがましいことは、思っていない。
 ただ、彼が困った時、苦しい時に、頼れる『誰か』の一人には、なりたいと思った。

 ふと、自分の手を見る。

 首筋に触れたときの、彼の肌の感触。
 思い出すと、また心臓がトクン、と跳ねた。

「……風邪、うつってないよね?」
 独り言のように呟いて、私は自分の熱い頬を両手で包み込んだ。

 街路樹の緑が濃くなり始めた七月の夕暮れ。
 湿ったアスファルトの匂いの中に、真夏の始まりの予感が混じっていた。