ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用な二人が、東京で0センチメートルになるまで~

 七月に入り、蝉がけたたましく鳴き始め、いよいよ夏本番への突入を告げている。

 前期末試験まで、あと一週間。
 キャンパス内の図書館は、単位取得に焦る学生たちの熱と、それを冷やそうと唸りをあげる空調の低い駆動音が、ひしめき合っていた。

「……はあ」
 重たいテキストを閉じると、紙とインクの匂いがふわりと舞った。
 こめかみの奥で、ズキズキと鈍い痛みが脈打っている。

 人手不足のため、連日シフトに入っていたファミレスのバイト。
 やっと新しい人が入り、テスト期間を前に、シフトを以前のペースに戻すことができ、安心したのも束の間。
 気が緩んだからか、しばらく無理していたツケが、ここに来て回ってきたらしい。

 喉の奥が焼け付くように熱く、飲み込んだ唾液が鉄の味に変わる。
 身体の節々が鉛のように重いのに、寒気が背筋を這い上がってくる奇妙な感覚。

(……やばいな、これ……)

 今日はもう帰ろう。
 そう決めて椅子から立ち上がろうとした瞬間――。
 視界がぐらりと歪んだ。

 平衡感覚が失われ、図書館の白い天井と、並んだ書架がメリーゴーランドのように回転する。
(やばい、倒れる)
 そう思い、とりあえず再度椅子に座る。

 僕は情けなくも、机に突っ伏すようにして、重い頭を机の冷たい天板に預けた。

 遠くで誰かがページをめくる音、ヒールの足音、そして窓の外で鳴く蝉の合唱が、水の中にいるように籠もって聞こえる。
 ちょっと休めば、なんとか歩いて帰れるかもしれない……。
 そう思った途端に、眠りの世界へ吸い込まれていくのを感じた。

 その直前、ふわり、と。
 あの、清潔な石鹸の香りが鼻先をかすめた気がした。