ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用な二人が、東京で0センチメートルになるまで~

「四番テーブル、ハンバーグセット入りましたー!」
「はい!」

鉄板の上で肉が焼けるジューという音と、油の跳ねる匂い。
食洗機の回る蒸気と、ホールの冷房が混ざり合った独特の空気が充満するキッチンで、僕は額の汗を手の甲で拭った。

ピークタイムは過ぎたとはいえ、店内はまだ賑やかだ。

「瀬川くん、ホールお願い! 三番さんの呼び出し!」
「了解です」

エプロンの紐を締め直し、トレイを片手にキッチンを出る。

重たい扉を開けた瞬間、客席の喧騒と、有線のJ-POPが鼓膜に飛び込んできた。
冷房の効いた涼しい空気に、熱った体が少しだけ生き返る心地がする。

「お待たせいたしました」
呼び出しベルが鳴った三番テーブルへ向かう。
伝票を取り出し、顔を上げる。
「ご注文をお伺い……」

そこまで言って、言葉が詰まった。

「……うふふ、来ちゃった!」
そう言いながら、メニュー表の影から、ニヤニヤした正人の顔が覗いている。
その隣には、サークルの同期のいずみ。

さらにその向かいには――。

「……あ、お、お疲れさまです……」
申し訳なさそうに、けれど少しだけ嬉しそうに目を細める、森さんがいた。

その瞬間、ファミレスのありふれた照明が、スポットライトみたいに彼女だけを照らし出したように見えた。

「え……お前ら、なんで」
素の声が出そうになるのを、慌てて接客用トーンに戻して飲み込む。

心臓が、早鐘を打ち始めた。

(汗臭くないか? 前掛け汚れてないか? 髪、ボサボサじゃないか?)

突然の女神の登場に、僕は焦りまくっていた。