ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用なふたりが、東京で0センチメートルになるまで。~

 夜の冷たい空気を切って歩いているうちに、すっかり身体が冷え切ってしまった。

 祥ちゃんのマンションに着くと、彼は「風邪引くから先に入りな」とすぐにお湯をためてくれて、私はお言葉に甘えて一番風呂をもらった。

 祥ちゃんも冷えているかもしれないから、早めに上がる。
 最近新調して祥ちゃんの家に置かせてもらっている、私専用の薄いイエローのガーゼ生地のパジャマに腕を通した。

 ふわりと、彼の服と同じ柔軟剤の香りが私を包み込む。
 この香りに包まれるといつも、深い安らぎと、彼に抱きしめられているようなドキドキが混ざり合って、なんともこそばゆい気持ちになってしまう。

 私が洗面所を出てお礼を伝えると、祥ちゃんは「いーえ」と言って、いつものごとく烏の行水のような猛スピードでシャワーを終えて出てきた。

「いつも通り早いね」
 思わず笑ってしまう。
 私はまだ、ソファベッドに座って壁にもたれかかりながらタオルドライ中だった。

 濡れた髪のままの祥ちゃんが、私の後ろへと回る。
 そして、私と壁の間に入り込むようにして座り、両足の間に私をすっぽりと挟み込んだ。

「貸して」

 私の膝の横に置いていたドライヤーをすっと取った祥ちゃんが、私の髪を乾かし始めた。

「……短い。サラサラ」
 温かい風とともに、祥ちゃんの大きな手が私の髪を梳く。
 その心地よい感触にきゅんとしながら、私は目を細めた。
「短いの、絡まなくて楽なんだよねー」

「……中学の時は、もっと短かったよな」
 耳元で聞こえた呟きに、私は少し驚いて振り返ろうとしたけれど、頭を固定されて阻止された。

「あ、うん! 部活やってたからね。ずっと顎くらいのボブだったかな。……よく覚えてるね」
「……そりゃあね」
 フッと、頭上から笑い声が降ってくる。

『そりゃあ、ずっと好きだったからね』

 言葉には出されなかったけれど、そんなふうに勝手に変換してしまって、私は一人でこっそりと頬を緩ませた。

 私の髪は短くなったおかげですぐに乾き、今度は二人の位置を交換して、私が祥ちゃんの髪を乾かし始めた。

「祥ちゃんも、少し伸びたね」
 指先に絡む少し長めの前髪を乾かしながら言うと、彼は面倒くさそうに目を伏せた。
「邪魔だから切りたいんだけど、美容院行くの億劫で」
「短髪の祥ちゃんも好きだけど、このくらいの祥ちゃんも好きだよ」

 私が素直な感想を口にした瞬間、祥ちゃんの肩がピタッと固まった。

「どうしたの?」
 不思議に思って顔を覗き込むと、彼は気まずそうに視線を逸らした。
「いや……なんか今日、ストレートじゃない?」
 照れたように耳を赤くしている姿に、私は愛おしい気持ちでいっぱいになった。