◇
家路につく道中も、思考は堂々巡りだった。
(みんなに配ってるって言ってたし、義理だよな……? でも、あの態度……)
不安を抱えつつ、帰宅してすぐに中身を確認する。
紙袋と同じ、綺麗な水色の箱。
その中には、繊細に作られた生チョコが四つ。
……これは、本当に「義理」なんだろうか。
僕はチョコレートに詳しくない。
けれど、小学生の頃に幼馴染が野球チーム全員に配っていた、あの大雑把な詰め合わせとは明らかに何かが違う。
考えるほど不安になり、正人にメッセージを送った。
『大石からバレンタインもらった?』
いつも通り、即座に返信が来る。
『おー、もらったぜ! タッパーに入ったクッキー一枚でも彼女なしの俺には染みるわー(笑)』
血の気が引くのがわかった。
正人には、クッキー一枚。僕には、丁寧に箱に詰められた生チョコ。
明らかに、熱量が違う。
(申し訳ないけど……これは後できちんと返そう)
そう決めた、その時。
――ピンポーン。
突然、静まり返った部屋にインターホンの音が鳴り響いた。
「っ!」
不意を突かれて、肩がビクッと跳ねる。
けれど、慌てて壁の時計を仰ぐと、四限が始まったばかりの時間。
講義を受けている美絵は、まだ到着しないはずだ。
焦っていた僕は、荷物の配達か何かだろうと思い、チョコレートをテーブルに出したまま、確認もせずにドアを開けてしまった。
「じゃーん!」
そこにいたのは――世界一大好きな笑顔。
「びっくりした? 四限が休講になったから、早く来ちゃった!」
えへへ、驚いた? とはにかむ美絵だった。
「……びっくりした! いや、その……今、家が汚くて! ちょっと待って……!」
「えっ? 全然気にしないよ。一緒に片付けようか?」
制止する間もなく、彼女がするりと靴を脱いで部屋に上がる。
そして、すぐにその動きが止まった。
(あ……気づかれたよな……)
「……それ……どうしたの?」
嘘をつく選択肢はなかった。
正直に、さっき起きたことを話す。
「……クラスの子に、義理チョコだって言われてもらったんだけど。でも、義理じゃないかもしれないから、返そうと思ってて……」
バツが悪そうに弁明する僕の言葉を聞き、美絵がそっと箱の中を覗き込む。
「……そっか。……たしかに、義理じゃないっぽいね」
怒ってはいない。
けれど、玄関で見せた満開の笑顔が、声とともにみるみる曇っていくのがわかった。
「……ごめん。対応、間違えた」
謝る僕の顔を、彼女は見ようとしない。
「……祥ちゃんが謝ることじゃないよ。返すのも悪いし、いただいたら? ……ちょっと、手、洗ってくるね」
そう言って、彼女は逃げるように洗面所へ消えてしまった。
「……あー……」
僕は頭を抱えた。
せっかくのバレンタインが、僕の無自覚な行動のせいで台無しになりかけている。
しばらくして洗面所から戻ってきた美絵は、何事もなかったかのような笑顔で、手作りのカラフルなトリュフをくれた。
本当に嬉しくて、最高に美味しかった。
僕は必死にその気持ちを伝えたけれど、彼女の目には、大石の件をフォローするためのオーバーリアクションに映っていたのかもしれない。
なぜなら、彼女がどこか無理をして明るく振る舞っているように見えたからだ。
部屋の隅、見えない場所に移動させたあの水色の箱について、その夜、二人が触れることは二度となかった。
家路につく道中も、思考は堂々巡りだった。
(みんなに配ってるって言ってたし、義理だよな……? でも、あの態度……)
不安を抱えつつ、帰宅してすぐに中身を確認する。
紙袋と同じ、綺麗な水色の箱。
その中には、繊細に作られた生チョコが四つ。
……これは、本当に「義理」なんだろうか。
僕はチョコレートに詳しくない。
けれど、小学生の頃に幼馴染が野球チーム全員に配っていた、あの大雑把な詰め合わせとは明らかに何かが違う。
考えるほど不安になり、正人にメッセージを送った。
『大石からバレンタインもらった?』
いつも通り、即座に返信が来る。
『おー、もらったぜ! タッパーに入ったクッキー一枚でも彼女なしの俺には染みるわー(笑)』
血の気が引くのがわかった。
正人には、クッキー一枚。僕には、丁寧に箱に詰められた生チョコ。
明らかに、熱量が違う。
(申し訳ないけど……これは後できちんと返そう)
そう決めた、その時。
――ピンポーン。
突然、静まり返った部屋にインターホンの音が鳴り響いた。
「っ!」
不意を突かれて、肩がビクッと跳ねる。
けれど、慌てて壁の時計を仰ぐと、四限が始まったばかりの時間。
講義を受けている美絵は、まだ到着しないはずだ。
焦っていた僕は、荷物の配達か何かだろうと思い、チョコレートをテーブルに出したまま、確認もせずにドアを開けてしまった。
「じゃーん!」
そこにいたのは――世界一大好きな笑顔。
「びっくりした? 四限が休講になったから、早く来ちゃった!」
えへへ、驚いた? とはにかむ美絵だった。
「……びっくりした! いや、その……今、家が汚くて! ちょっと待って……!」
「えっ? 全然気にしないよ。一緒に片付けようか?」
制止する間もなく、彼女がするりと靴を脱いで部屋に上がる。
そして、すぐにその動きが止まった。
(あ……気づかれたよな……)
「……それ……どうしたの?」
嘘をつく選択肢はなかった。
正直に、さっき起きたことを話す。
「……クラスの子に、義理チョコだって言われてもらったんだけど。でも、義理じゃないかもしれないから、返そうと思ってて……」
バツが悪そうに弁明する僕の言葉を聞き、美絵がそっと箱の中を覗き込む。
「……そっか。……たしかに、義理じゃないっぽいね」
怒ってはいない。
けれど、玄関で見せた満開の笑顔が、声とともにみるみる曇っていくのがわかった。
「……ごめん。対応、間違えた」
謝る僕の顔を、彼女は見ようとしない。
「……祥ちゃんが謝ることじゃないよ。返すのも悪いし、いただいたら? ……ちょっと、手、洗ってくるね」
そう言って、彼女は逃げるように洗面所へ消えてしまった。
「……あー……」
僕は頭を抱えた。
せっかくのバレンタインが、僕の無自覚な行動のせいで台無しになりかけている。
しばらくして洗面所から戻ってきた美絵は、何事もなかったかのような笑顔で、手作りのカラフルなトリュフをくれた。
本当に嬉しくて、最高に美味しかった。
僕は必死にその気持ちを伝えたけれど、彼女の目には、大石の件をフォローするためのオーバーリアクションに映っていたのかもしれない。
なぜなら、彼女がどこか無理をして明るく振る舞っているように見えたからだ。
部屋の隅、見えない場所に移動させたあの水色の箱について、その夜、二人が触れることは二度となかった。


