ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用なふたりが、東京で0センチメートルになるまで。~

 ◇

 二限の試験を終えた僕は、学食で手早く昼食を済ませ、来年度の単位相談のために学務課へと足を向けた。

 売店の前には『バレンタインフェア』と銘打たれた特設コーナーがあり、色とりどりのチョコレートが華やかに並んでいる。

 今日は、二月十四日。バレンタイン当日だ。
 四限まで講義がある美絵が、終わり次第、僕の家に来ることになっている。

(少し掃除して待ってるか。……なんだか、ソワソワするな)

 浮ついた足取りで歩いていた、その時だった。

「……祥太郎くん」

 後ろから声をかけられて振り返ると、同じクラスの大石が立っていた。
「おお。お疲れ」
 挨拶を返したが、彼女の顔はどこか強張っている。

「? どうした?」

 不思議に思って問いかけると、彼女は僕と目を合わせないまま、手のひらサイズの水色の紙袋を差し出してきた。

「……あの……これ……」

 一瞬、思考が止まる。

 快活な彼女の、普段とは違う様子から、鈍感な僕でも正解を導き出してしまった。

 ――バレンタインか? これ……。

 けれど、僕には美絵がいる。
 彼女もそのことは認識しているはずだ。

「あ……」

 戸惑い、断る言葉を探そうとした瞬間。
 彼女がそれを遮るように早口でまくし立てた。

「……クラスのみんなに配ってて! さっき正人くんたちには渡したんだけど……祥太郎くんいなかったから……!」

「……ああ、そうなんだ」
『クラスのみんなに』という言葉に、わずかな安堵が胸をかすめる。
 それなら、いわゆる義理チョコという解釈でいいはずだ。

 いや、でも……と思考にブレーキをかける。

 義理なら受け取ってもいいのか?
 いや、世間一般のルールはどうでもいい。
 問題は、美絵がどう思うかだ。

 脳裏をよぎるのは、他の女の子との関わり方にやきもちを焼く美絵の姿だった。

 やはり……義理であっても受け取るのはやめておこう。

「…………」
 角が立たない断り方を選ぼうと、数秒の沈黙が流れる。
 足元を見つめていた彼女が、その静寂を切り裂いた。
「……だから、お返しとか気にしないで!」
 僕の視線を拒むように、紙袋を無理やり手元に押し付けてきた。
「あ、ちょっと待っ……」
「……っ、それじゃあ!」
「おい……!」

 呼び止める声も虚しく、彼女は脱兎のごとく去っていった。

(どうしよう。行ってしまった……)

 困り果てた僕は、ひとまずそれを鞄の奥にしまい込み、釈然としないまま用事を済ませに向かった。