◇
「ヨイショ!」「ヨイショ!」
そんな経緯で冒頭の状態に至るわけだが、スポーツをやっていたからか変にリズム感が合ってしまい、周りからは拍手までいただいてしまった。
ようやくお役御免となり、つきたてのきなこ餅を智也と立ち食いしていると、隣にふらりと美絵のお父さんがやってきた。
「君……美絵の同級生だって?」
「あ……! ご挨拶遅れてすみません。瀬川祥太郎と言います」
慌てて自己紹介すると、お父さんはピタリと動きを止め、僕の顔をまじまじと見つめた。
「美絵の同級生で、『瀬川くん』……? 君、もしかしてピッチャーやってた子か?」
「えっ!? ……ゲホッ、ゴホッ」
予想外の言葉に、僕は思わずきなこにむせてしまった。
「おいおい、餅はしっかり噛んで食べなさい」
背中をさすられながら、僕は目を白黒させる。
「……僕の名前、知ってくださっていたんですか?」
「ああ。僕も小さい頃から野球をやっていて、今も大好きでね。休みの日に、君が投げてる試合、観に行ったことあるよ。いやあ、いい球投げてたなあ」
「……っ、ありがとうございます」
まさか、彼女のお父さんが自分の昔のピッチングを知ってくれていたなんて。
驚きと気恥ずかしさで、心臓が別の意味でバクバクと音を立てた。
「大学での美絵は、どうかな」
「はい。仲のいい友達もたくさんいて、すごく楽しそうにしています」
僕がそう答えると、お父さんは「そうか」と安心したように眉尻を下げた。
ふと視線をやると、美絵がお母さんと一緒にこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
お父さんはそれを見ながら、僕に向かってぽつりと呟いた。
「……あの子を、よろしく頼むね」
「えっ?」
(あれ、待って。付き合ってることはまだ内緒ってことでいいんだよな……? これは『大学の友達として』よろしくってことだよな……?)
一瞬、頭の中がパニックになりかけたが、僕は深く考えないようにして、しっかりと頷いた。
「……はい」
◇
帰る時間になり、公園の入り口で美絵が僕と智也を見送ってくれた。
「あんまり話せなかったけど……来てくれてありがとう」
微笑む美絵に、僕は「うん」と頷く。
隣に智也がいる手前、恋人らしい会話はできない。
けれど、「会えて嬉しかった」という気持ちだけは、お互いの視線と表情で十分に伝わり合っていた。
智也は、そんな僕たちのもどかしいやり取りをじっと見つめていた。
「……さ、帰るか」
美絵と別れた後、自転車にまたがり、ペダルを漕ぎ始める。
冬の冷たい風を切りながらしばらく走っていると、隣からボソッと声が聞こえた。
「……兄ちゃん。あの人……」
何か言いたげな智也に、僕は「…………」と無言で視線を返す。
数秒の沈黙の後、僕の必死なオーラを察したのか、智也は前を向いたまま言った。
「……母さんたちには、黙っとく」
「……助かる」
もしこのことが母や姉に知られたら、新たなゴシップネタを手に入れたとばかりに大騒ぎされ、根掘り葉掘り問い詰められるに決まっている。
(ま、まさか……『智也を連れて行ってあげれば』と提案したのは、智也を使って探るためか!?)
僕は、味方になってくれた弟に安堵して、小さく息を吐いた。
冷たい空気が心地よく頬を撫でていく。
途中から、粉雪が降り始めた。
◇
家に帰ると案の定、母と姉から「やっぱり女の子!?」「どんな子だった!?」と質問攻めにあっていた智也だったが、全部「……知らない」で通してくれていた。
色々と想定外の連続だったけれど。
新しい年のはじまりに、二人の生まれ育った街で、彼女の顔を見られた。
間違いなく最高な年の始まりだった。
「ヨイショ!」「ヨイショ!」
そんな経緯で冒頭の状態に至るわけだが、スポーツをやっていたからか変にリズム感が合ってしまい、周りからは拍手までいただいてしまった。
ようやくお役御免となり、つきたてのきなこ餅を智也と立ち食いしていると、隣にふらりと美絵のお父さんがやってきた。
「君……美絵の同級生だって?」
「あ……! ご挨拶遅れてすみません。瀬川祥太郎と言います」
慌てて自己紹介すると、お父さんはピタリと動きを止め、僕の顔をまじまじと見つめた。
「美絵の同級生で、『瀬川くん』……? 君、もしかしてピッチャーやってた子か?」
「えっ!? ……ゲホッ、ゴホッ」
予想外の言葉に、僕は思わずきなこにむせてしまった。
「おいおい、餅はしっかり噛んで食べなさい」
背中をさすられながら、僕は目を白黒させる。
「……僕の名前、知ってくださっていたんですか?」
「ああ。僕も小さい頃から野球をやっていて、今も大好きでね。休みの日に、君が投げてる試合、観に行ったことあるよ。いやあ、いい球投げてたなあ」
「……っ、ありがとうございます」
まさか、彼女のお父さんが自分の昔のピッチングを知ってくれていたなんて。
驚きと気恥ずかしさで、心臓が別の意味でバクバクと音を立てた。
「大学での美絵は、どうかな」
「はい。仲のいい友達もたくさんいて、すごく楽しそうにしています」
僕がそう答えると、お父さんは「そうか」と安心したように眉尻を下げた。
ふと視線をやると、美絵がお母さんと一緒にこちらへ向かって歩いてくるのが見えた。
お父さんはそれを見ながら、僕に向かってぽつりと呟いた。
「……あの子を、よろしく頼むね」
「えっ?」
(あれ、待って。付き合ってることはまだ内緒ってことでいいんだよな……? これは『大学の友達として』よろしくってことだよな……?)
一瞬、頭の中がパニックになりかけたが、僕は深く考えないようにして、しっかりと頷いた。
「……はい」
◇
帰る時間になり、公園の入り口で美絵が僕と智也を見送ってくれた。
「あんまり話せなかったけど……来てくれてありがとう」
微笑む美絵に、僕は「うん」と頷く。
隣に智也がいる手前、恋人らしい会話はできない。
けれど、「会えて嬉しかった」という気持ちだけは、お互いの視線と表情で十分に伝わり合っていた。
智也は、そんな僕たちのもどかしいやり取りをじっと見つめていた。
「……さ、帰るか」
美絵と別れた後、自転車にまたがり、ペダルを漕ぎ始める。
冬の冷たい風を切りながらしばらく走っていると、隣からボソッと声が聞こえた。
「……兄ちゃん。あの人……」
何か言いたげな智也に、僕は「…………」と無言で視線を返す。
数秒の沈黙の後、僕の必死なオーラを察したのか、智也は前を向いたまま言った。
「……母さんたちには、黙っとく」
「……助かる」
もしこのことが母や姉に知られたら、新たなゴシップネタを手に入れたとばかりに大騒ぎされ、根掘り葉掘り問い詰められるに決まっている。
(ま、まさか……『智也を連れて行ってあげれば』と提案したのは、智也を使って探るためか!?)
僕は、味方になってくれた弟に安堵して、小さく息を吐いた。
冷たい空気が心地よく頬を撫でていく。
途中から、粉雪が降り始めた。
◇
家に帰ると案の定、母と姉から「やっぱり女の子!?」「どんな子だった!?」と質問攻めにあっていた智也だったが、全部「……知らない」で通してくれていた。
色々と想定外の連続だったけれど。
新しい年のはじまりに、二人の生まれ育った街で、彼女の顔を見られた。
間違いなく最高な年の始まりだった。


