ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用なふたりが、東京で0センチメートルになるまで。~

 彼の隣で目覚めてからもずっと、甘い余韻の中にいるような一日だった。

 祥ちゃんの誕生日当日は、誕生日の本人が作ってくれる朝ごはんからスタートした。
 昨日コンビニで買った食パンをトーストして、手際よくバターを塗る。
 その上に目玉焼きとカリカリのベーコンを乗せ、仕上げに塩コショウをパラリ。
「簡単なものだけど、どうぞ」と差し出されたのは、シンプルだけど食欲をそそる香りが漂うワンプレート。

「祥ちゃん、料理できるんだね」
「えっ、いやいや。安くて簡単で、それなりに栄養が取れるものなら、自分用にたまに作るってだけ」

 実家にいた頃は台所に立つことなんてなかったらしいけれど、バイト先のファミレスで、人手不足の時にキッチンも手伝わされるうちに、自然と抵抗がなくなったのだという。

「……美味しーい」
 サクッとしたトーストと卵のまろやかさが口の中に広がる。
 私も自分用に簡単な料理なら作っているけれど、今度、手間暇かけた特別なものを彼に作ってあげようと心に決めた。
 なんだかずっと、私は彼に幸せをもらってばかりな気がするから。

 食後の飲み物は、彼がブラックコーヒーで、私はカフェラテを淹れてもらった。
 ふと思い立って、彼のを一口だけもらう。

「……あれ?」
 ブラック特有の苦味はいまだに得意じゃないはずなのに、不思議と「これなら好きになれるかも……」という予感がした。
「これは酸味が少なくて苦いタイプかな。探してみたら、美絵の好きなブラックが見つかるかもよ」
 そう教えてくれる彼の大人っぽさに、また少しだけ背伸びをしたくなる。

 ◇

 誕生日デートの行き先は彼の希望に合わせようと思っていたのだけれど。
 彼が提案したのは、家で過ごしたり、近隣を散策する「まったりデート」だった。

 朝、確認された時は「大丈夫」と答えたけれど……もしかすると、初めての夜を過ごした私の身体を気遣ってくれたのかもしれない。
 ……そう気づくと、なんだか顔が熱くなった。

 昼過ぎまでは、懐かしい曲を流して「これ、流行ってたよね」と話したり、昨晩のトランプの続きをやったりして、家でのんびりと過ごした。
 その後、遅めのランチをとるために、前から気になっていた近所のカフェへ向かった。
 植物に囲まれたお洒落な空間。
 二人が選んだオムライスは、卵がふわふわですごく美味しくて、「また来よう!」と約束した。

 店を出た後は、スーパーに立ち寄った。
 祥ちゃんはケーキが苦手らしいので、誕生日ケーキの代わりになる何かを買おうと思っていたのだ。
 けれど、彼が並んでいる焼きそばの麺を見て「急に食べたくなった」と呟いたのをきっかけに、夜ごはんは二人で並んで焼きそばを作ることになった。

 狭いキッチンに二人で並び、野菜を切る。
(なんか……夫婦みたい)
 そんなことを考えて、勝手に照れてしまった。

 私が小学校低学年の時、転んで顔が血だらけになったのを見たお父さんが気を失った話。
 祥ちゃんが五つ下の弟のことを「野球やってるよ」「もう中学生なのに、なんだかんだ可愛いんだよなー」と目を細めて話す横顔。
 お互いのルーツに触れるたび、心の距離がさらに一歩、近づいていくような気がした。