ふたつの弧が、重なるとき ~六年越しの両片思い。不器用なふたりが、東京で0センチメートルになるまで。~

 やがて、外がどんどん明るくなり、部屋の色も青から暖かみのある白へと変わっていく。

 東向きの窓から真っ直ぐに朝陽が差し込み、彼女の白い頬を柔らかく照らし始めた。
 それが眩しかったのか、しばらくすると彼女が再び「んんっ……」と小さく唸り、うっすらと瞳を開いた。

「…………?」

 僕と同じように、寝覚めの頭では状況が分からないらしく、ぽやっとした目で見つめてくる。

「……おはよ」

 僕が優しく声をかけると、彼女はハッと目を見開いた。
 昨日のことを全て思い出して恥ずかしくなったのか、みるみるうちに頬を赤くして、首元まであった毛布を口元までギュッと引き上げて隠してしまった。

「……おはよう」
 毛布越しに、くぐもった声が返ってくる。

「祥ちゃん、起きてたの?」
「うん」
「……いつから?」
「結構前から」

 僕が答えると、彼女はさらに毛布を顔に押し付けた。

「……顔見せてよ。見たい」

 僕が毛布の端に手をかけると、「……やだ。恥ずかしいもん」と言って、今度は頭の先まですっぽりと被ってしまった。
 毛布の中で、僕から逃げるように丸まっている。

「お願い」
「やだ」
 さらに力を入れて毛布を死守しようとする彼女。

 埒が明かないので、僕は毛布の中で、スウェット越しに彼女の細い腰のあたりを狙って、軽くくすぐってみた。
「……ひゃっ! あははっ、やめてー!」
 彼女がケラケラと笑いながら身をよじる。

 毛布の中という狭い空間でじゃれ合っているうちに、ふと僕の手がダボダボのスウェットの下に入り込み、彼女の素肌に直接触れてしまった。

「あ……」

 その瞬間、昨晩の指先の感触がぶわっとフラッシュバックし、僕の動きがピタリと止まる。

 毛布から顔があらわになっていた彼女も、僕の手の感触に気づいてそれを察したのか、一瞬で顔を真っ赤にして固まった。

「……あー……」
「…………」
 気まずさと、それ以上の熱。

 僕はたまらず彼女をそっと腕の中に抱き寄せた。

 そして、一度、二度、三度……と、何度もキスをした。

「…………祥ちゃん……」

 その合間に、彼女の、甘く、とろけるような声が耳元を掠める。

(…………まずい)

 このままだと、僕のなけなしの理性が吹き飛んで、本当に危ない。
 僕は意識的にぐっと奥歯を噛み締め、無理やり冷静さを取り戻した。

 ゆっくり身体を離すと、めくれ上がっていた彼女のスウェットの裾を丁寧に直す。
 そしてベッドの上で正座をして、美絵の方を向いた。

「…………」
「……朝ごはん用意するんで、待っててください」
 照れ隠しもあって、つい敬語になってしまった。

 すると美絵も身体を起こし、僕と同じようにちょこんと正座をしてから、真っ赤な顔で頷いた。
「……ハイ」

 そのやり取りがおかしくて、恥ずかしくて。

 僕は急いで立ち上がってキッチンへ向かおうとした。
 しかし、焦りすぎて何もない平らな床で思い切りつまずき、派手に転びそうになってしまった。

「いって……」

 そう小さく呟き、後ろから聞こえる美絵のクスクスという笑い声を背中で受け止めながら、僕は逃げるようにキッチンへと向かったのだった。