第一部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

テオもまた、子どもたちと一緒に野菜を切っていた。

小さな丸椅子に腰掛け、
膝ほどの高さの作業台で、人参を刻んでいる。

騎士団の中では近寄りがたい印象の彼が、
子どもたちに囲まれている光景は――
どこか不思議で、少しだけ可笑しかった。

「……ずいぶん馴染んでるのね」

思わず、そう呟いてしまう。

「おにぃちゃん、切るの上手!」

隣の男の子が、目を輝かせて声を上げた。

「ほんとだー、はやい!」

無邪気な称賛に、テオは一瞬だけ手を止める。

「ん?」

それから、少し困ったように眉を下げて笑った。

「刃の扱いはねー……慣れ、かな」

軽く、どこか照れたような口調。

近くで見守っていた院長が穏やかに笑いながら近づいてきた。

「ティアナお嬢様、本当にありがとうございます。
必要な設備まで整えていただいて、さらに子どもたちにパンの作り方まで教えてくださるなんて……」

「いいんですよ。こちらも子どもたちが手伝ってくれてとても助かっていますから」

そう答えながら、再び子どもたちを見る。

パンの作り方を覚えた子どもたちは、きっと別の子へも教えるだろう。
知識が受け継がれ、経験が積み重なっていく――それは何よりの財産だ。

今日のボランティアが終わっても、設備は残る。
知識も、経験も残る。