第一部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「……お父様は嘘をついてたってことね」

自分でも驚くほど、声は冷静だった。
感情が追いついていないせいか、それとも――
もう、どこかで覚悟していたのか。

「そうなります」

ユウリは否定しなかった。
その一言が、何よりも重い。

「私はずっと……」

言葉が、途中で止まる。

――家族は、嘘をつかないものだと。
少なくとも、私を守るための嘘なのだと。

そう信じていた。

「私はずっと、お父様は私を遠ざけているだけだと思ってた。
危険な世界から、守るために……」

カップに残った紅茶は、すっかり冷めている。
けれど、口をつける気にはなれなかった。

「でも、違った」

その言葉にした途端、胸の奥で何かがひび割れる。

「……守っていたんじゃない」

ゆっくりと、息を吐く。

「隠していたのね。
私が“何であるか”を」

沈黙が、肯定の代わりに落ちた。

「……お父様は」

私は、視線を伏せたまま問いを形にする。

「どこまで関わっていたの?」

ユウリは、すぐには答えなかった。
視線を落とし、ほんのわずかな間を置いてから口を開く。

「少なくとも――
研究の存在を知らなかった、ということはありません」

その言葉で、十分だった。

「じゃあ……目的は?」

声が、自然と低くなる。

「研究者としての興味。
家としての力の維持。
あるいは――」

ユウリは、最後までは言わない。

「永続性、です」

不老。
不滅。
魔宝石と共鳴する“器”の存在。

頭の中で、書類の断片が次々と繋がっていく。