第一部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

そして、死因欄。

「死因:急性魔力衰弱」

私は、そこで一度ページを止める。

「これって…病死として処理されたってこと?」

「はい。対外的にはそう処理されています」

ユウリは一拍置いて、静かに続けた。

「ですが、魔力衰弱は“結果”であって、“原因”ではありません」

私は再び視線を落とす。

発症時刻。
死亡推定時刻。
立ち会い者――記載なし。

代わりに、備考欄には小さな文字が並んでいた。

『高純度魔宝石との接触歴あり』
『実験中の事故の可能性を否定せず』

「事故……の“可能性”?」

呟くと、ユウリは小さく首を振る。

「決定的なのは、こちらです」

指し示された別の紙。

「魔力循環路に外傷なし」
「防御結界、完全」
「外部干渉の痕跡なし」

「……矛盾してる」

言葉が、自然と零れた。

防御も制御も完璧。
外部からの攻撃も、装置の異常もない。

それなのに――対象者だけが死亡している。

「はい。通常、あり得ません」

ユウリの視線が、真っ直ぐ私を捉える。

「まるで――
魔宝石側が、アイリス様を“選んだ”かのような結果です」

胸の奥が、きゅっと縮んだ。

“選んだ”。

その言葉が、嫌なほどしっくりきてしまう。

「……ねえ、ユウリ」

私は、書類から顔を上げた。

「アイリス…いやお母様は、自分が死ぬかもしれないって……分かってたと思う?」

少しの沈黙。

「……おそらくは」

ユウリは、目を逸らさなかった。