第一部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「テオ、入るよ?」

扉は開いていた。
私は静かに中へ足を踏み入れる。

机とベッドだけの、簡素な部屋。
余計なもののない、彼らしい空間。

ベッドの上では、テオが腰をかけ、
布団を被って小さく丸くなっていた。

……顔が見えない。

胸の奥が、ちくりと痛む。

そっと近づく。

「テオ、隣に座ってもいい?」

布団の向こうで、小さくこくんと頷く気配。

テーブルにサンドイッチの入ったカゴを置き、
私は彼の隣に腰を下ろした。

「どうしたの?
セナが心配してたよ」

返事はない。

――どう声をかければいいのだろう。

叱りたいわけでも、責めたいわけでもない。
ただ、話してほしいだけなのに。

「お腹、空いてない?
私が作ったの。レオも手伝ってくれたんだけど」

「……あとで食べる」

かすれた声。

拒絶ではない、その曖昧さが、胸に刺さる。

「調子、悪い?
熱でもある?」

そっと額に手を伸ばす。

熱はない。

安堵して手を下ろそうとした、その瞬間――
不意に手首を掴まれ、体勢が崩れた。

気づけば、ベッドの上。

驚きに息を呑む。

近すぎる距離。
真正面から見たテオの顔は、思っていた以上に弱々しくて――

私は思わず、その頬に手を伸ばしていた。