「わかったわ。少し、話を聞きに行ってくる」
仕事もひと段落していた私は、椅子から立ち上がった。
「今なら、騎士寮の自室にいると思います」
「ありがとう、セナ」
扉を出たところで、紅茶を運んできたユウリが足を止める。
「お嬢様、どちらへ?」
「テオの様子が気になるの。少し、2人で話してくるわ」
ユウリは一瞬だけ何か言いたげにしたが、静かに頷いた。
「かしこまりました」
騎士寮へ向かう前、私は厨房の前で足を止める。
「レオー、いる?」
「お嬢さーん! どうしたんすか? お腹空きました?」
「いつも空いてるわけじゃないわよ」
思わず苦笑してから続ける。
「テオに差し入れを持っていきたいの。
材料と場所、少し借りてもいい?」
「それなら、食パンと卵とベーコン、チーズがありますよ。
サンドイッチならすぐ作れます。俺も手伝います!」
「ありがとう」
厨房に入り、エプロンをつけ、髪を束ねる。
三角巾まで被ると、自然と少し気持ちが落ち着いた。
――こういう時間は、嫌いじゃない。
「それにしても、テオがどうしたんですか?」
「少し、元気がないみたい。
食事も睡眠も、きちんと取れていないって聞いたの」
「昔もありましたよね。テオが来た頃。
俺、勘違いで扉壊しちゃって」
「ええ……あの時は本当に驚いたわ」
思い出して、ふっと笑う。
「もう壊さないでね」
「わかってますって」
パンをナイフで切りながら話す。
けれど胸の奥には、あの日の光景が消えずに残っていた。
深紅の魔力。
震える剣。
何かを必死に断ち切ろうとするような、テオの横顔。
――私は、彼を止めただけだった。
彼が何を怖れているのか、
何に縋ろうとしていたのか。
それを、聞けていなかった。
だから今度は。
叱るためでも、命じるためでもなく。
ただ、ちゃんと話すために。
そっと心の中で決めていた。
