そのとき――
「なにしてるの?」
高く澄んだ声が、2人の間合いを切り裂いた。
はっとして顔を上げる。
そこに立っていたのは、
間違いなく――お嬢さまだった。
騎士たちが止めに入るよりも早く、
お嬢さま自身が、迷いなく2人の間に踏み出している。
「魔宝剣を使った模擬戦は、報告が必要よ」
その一言で、
刀身を染めていた深紅の魔力が揺らいだ。
――ああ、やっぱり俺は、まだ子供だ。
焦りと嫉妬に突き動かされ、
本気で斬り結ぶ覚悟をしたはずなのに。
お嬢さまがそこに立つだけで、
心は簡単に乱れてしまう。
お嬢さまは怒りも責めもしない。
ただ静かに、諭すように言った。
「やめなさい。2人とも。
そんなことをする理由なんて、ないでしょう?」
「申し訳ありません」
セナ副団長は短く答え、深く頭を下げる。
――そうだ。
理由なんて、どこにもない。
勝っても、何も手に入らない。
守りたい、そばにいたいという想いは、
誰かを傷つけて証明するものじゃない。
深紅の輝きが、ゆっくりと霧散していく。
紅の刃も、氷の壁も、跡形もなく消えた。
俺は荒い息を整え、顔を上げる。
お嬢さまの眼差しを受けて、
胸のざわつきが、ほんの少しだけ静まっていった。
――守りたいのは、剣で勝つことじゃない。
そばにいることだ。
けれど、もしそれを望まれなかったら?
俺は……捨てられるのか。
こわい。
「……お嬢さま、ごめん」
それだけを残し、
俺は逃げるように背を向けた。
