第一部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

自室に戻ると、ユウリが静かに紅茶を淹れてくれた。

たっぷり注がれたミルクの白が、湯気の向こうでゆっくりと混ざっていく。
それを一口含むと、不思議と心が落ち着いた。

そして私は、蝶の会で起きた出来事を、ひとつひとつ話し始めた。

「まず、その“サーフェス”という男の話だけど……」

カップを両手で包みながら言葉を選ぶ。

「魔女の雫は、宝石を媒介にして
人の弱さや憎悪、恐れ、絶望……そういった感情を集めるらしいの」

ユウリは無言で紙を取り、要点を書き留めていく。

「集められた感情は、より強大な形となって
“魔女の紅血”に変わるそうよ」

「紅血は、ただの魔力じゃない。
欲望を増幅し、持つ者に途方もない力を与えるものなんだって」

ペン先が止まり、簡潔な言葉が紙に並んだ。

――魔女の雫
――感情の集積
――紅血へ変換

「そして、それを企んでいる人物は……まだ不明」

「……そうですね」

喉が少し乾き、紅茶をもう一口飲む。

「それから……私の記憶の件」

「男性と女性が言い争っている光景が、何度も浮かぶの」

言葉を選びながら、続けた。

「その女性のことをアイリスって呼んでた」

「アイリス様ですか」
ユウリが呟く。

「呼んでたその男性はお父様かもしれない……
顔ははっきり思い出せないけど……」

記憶を辿る。

確信はない。
けれど、父のような気がした。


「さらに――」

私は息を吸う。

「お父様が蝶の会に関わっている“かもしれない”という点」

ユウリの表情が、わずかに引き締まった。

彼は黙ってその内容を書き加える。