第一部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

「お嬢様は、少し勘違いをなさっています」

ユウリは穏やかに言う。

「私は、お嬢様の――
思慮深く、物事を客観的に見てくださるところが好きなのです」

「家柄でも、立場でも、外見でもなく。
私自身を見て、仕事ぶりや人柄で評価してくださる」

「そんなお嬢様に『そばに置きたい』と言われて、
嬉しくないわけがありません」

握られていた手に、ユウリがそっと力を込めた。

あたたかくて、優しくて。
とても大きな手だった。

「……ありがとう、ユウリ。
でも、この話をしたら……あなたの人生にまで踏み込むことになる」

泣きそうになるのを必死にこらえながら、ようやく口にする。

「それは、今さらですよ。お嬢様」

微笑みは変わらない。

「もうお嬢様は、私の人生の一部です。
むしろ――お嬢様なくして、私の人生は語れません」

「ですから」

その瞳に、揺るぎはなかった。

「私にも一緒に背負わせてください。
貴女一人に、背負わせはしません」

その言葉に、胸がきゅっと締めつけられる。

「……ユウリ」

「それでは優秀な私に、相談したいことがありますね?」

そう言って、にこりと笑うユウリに――
私は、静かに頷いた。