第一部 夜明けが世界を染めるころ、悪意の見える伯爵令嬢は王子の執着から逃れられない

3人がかりとはいえ、まだ余裕はあった。

剣を振るたび、感触が正確に返る。
距離、重さ、呼吸の間。

すべて、手の内だ。

魔宝剣の弱体化。
感覚からして、せいぜい5分。

――それまで凌げばいい。

アレンの雷が走る。

光が弾ける瞬間を読み、
剣身を斜めに滑らせる。

放電が刃を伝い、地面へ逃げた。

ロベルトの重い一撃。

剣ごと叩き潰す勢いだが、
踏み込みは遅い。

衝突の瞬間、力を殺し、
体軸をずらして受け止める。

衝撃が腕を痺れさせるが、
耐えられないほどではない。

そして――彼女。

風をまとった斬撃が、
音より速く迫る。

視界が歪む。

だが、風の“芯”は見える。

一歩、半身。
紙一重でかわす。

刃が頬をかすめ、
冷たい気流だけが残った。

呼吸は乱れていない。
鼓動も、平常だ。

判断も、鈍っていない。

(もう少しだ)

魔宝剣の力が戻れば、形勢は逆転する。

氷が完全に展開できれば、
風も雷も押し切れる。

その瞬間に――決める。

そう思った、次の瞬間。

足裏に、違和感。

地面を踏みしめた感触が――ない。

重い。

いや、違う。

動かない。

拘束。

筋肉ではない。
地面そのものが、足を掴んでいる。

これは――。

「……テオ?」

思わず、声が漏れた。

「せいかーい」

どこか気の抜けた声。

だが、気配は完璧に消えていた。

殺気も、魔力の揺らぎもない。

息を潜め、
魔力を抑え、
この一瞬のためだけに――待っていた。

(遠征のはずじゃ……)

背後で、影が蠢く。

地面に走る細い赤い光。
拘束魔法。

そこまで、仕組まれていたのか。

思わず、口の端が上がる。

「……なかなか、ずる賢い」

だが、まだだ。

足が動かなくても、
上半身は自由。

剣は振れる。

魔宝剣の光も、
確実に戻り始めている。

――勝てる。

そう、思った。