写真展初日、土曜日の朝。
私は何度も鏡の前に立った。服を着替えて、また脱いで、また着て。何を着ていけばいいのかわからなかった。
結局、白いシャツとジーンズという、いつも通りの格好に落ち着いた。
リビングに行くと、母が朝食の準備をしていた。
「おはよう。今日、写真展でしょ?」
「うん」
「お母さん、午後から行くわね」
「……来なくてもいいよ」
「行きたいの。澪の写真、ちゃんと見たいから」
母の言葉が、嬉しかった。
朝食を食べながら、母が聞いてきた。
「緊張してる?」
「……すごく」
「大丈夫よ。澪の写真、素敵だもの」
母は、優しく笑った。
「自信持って」
午前十時、ギャラリーが開館する。
私は、少し遅れて十一時頃に会場へ行くことにした。
開館と同時に行くのは、怖すぎた。
家を出る前、鏡をもう一度見る。
いつもの私。
でも、今日は少しだけ違う気がした。
ギャラリーに着くと、すでに何人かの来場者がいた。
受付で名前を告げると、「出展者ですね」と確認された。
会場に入る。
白い壁に並んだ、たくさんの写真。
その中に、私の写真もあった。
自分の写真の前に立つ。
雨に濡れた窓ガラス越しの街。
夕暮れの空と街灯。
誰もいない公園のベンチと、忘れ物の傘。
こうして展示されると、また違って見えた。
客観的に見ると、本当に寂しい写真だった。
しばらく自分の写真を見つめていると、隣に誰かが来た。
六十代くらいの女性だった。
「これ、あなたが撮ったの?」
突然話しかけられて、驚いた。
「……はい」
「素敵ね」
女性は、写真を見つめながら言った。
「特に、この傘の写真。何か、物語を感じるわ」
物語。
その言葉が、意外だった。
「どんな物語ですか?」
私が聞くと、女性は少し考えてから答えた。
「そうね……誰かが、ここにいたのよね。でも、もういない。傘だけが残されて」
女性は、私を見た。
「これ、あなた自身のことじゃない?」
その言葉に、息を呑んだ。
見抜かれている。
この写真が、私の心そのものだということを。
「……そうかもしれません」
「辛かったのね」
女性の声は、優しかった。
「でも、こうして写真にできたってことは、前を向こうとしてるってことよ」
前を向こうとしている。
朝倉くんも、同じことを言っていた。
「頑張ってね」
女性は、そう言って去っていった。
私は、その背中を見送った。
知らない人に、励まされた。
それが、不思議と嬉しかった。
午後二時頃、母が会場に来た。
「澪、いた」
母は、少し興奮した様子で近づいてきた。
「写真、見たわよ。すごく良かった」
「……ありがとう」
「特に、この窓ガラスの写真。綺麗だけど、切ない感じがする」
母は、写真を見つめながら言った。
「澪の心が、写ってるわね」
母も、わかっているのだ。
この写真が、私の心だということを。
「お母さん」
「ん?」
「私、ちゃんと前に進めてるかな」
その質問に、母は少し驚いたような顔をした。
そして、私の手を取った。
「澪はね、もう十分頑張ってるわ」
母の声は、優しかった。
「写真を撮り続けて、写真展に応募して、ここに立ってる。それだけで、すごいことよ」
「でも、私──」
「澪が思ってるほど、澪は弱くない」
母は、私の目を見た。
「中学の時のこと、まだ引きずってるでしょ?」
私は、頷いた。
母は、知っていたのだ。
私が、美咲のことをずっと後悔していることを。
「お母さんね、澪が毎晩泣いてるの、知ってたわ」
「……え?」
「中学の時も、高校に入ってからも。澪、夜中に泣いてたでしょ」
母は、悲しそうな顔をした。
「お母さん、何もしてあげられなくて、ごめんね」
涙が、溢れてきた。
母は、ずっと知っていた。
私の苦しみを。
でも、何も言わずに見守っていてくれた。
「お母さん、私──」
「いいのよ。澪が自分で乗り越えなきゃいけないことだから」
母は、私を抱きしめた。
「でも、一つだけ言わせて」
母は、私の肩に手を置いた。
「澪は、誰も裏切ってない」
「でも、美咲を──」
「中学生の澪が、どれだけ怖かったか。お母さんにはわかるわ」
母の目に、涙が浮かんでいた。
「声をかけられなかったことを、責めないで」
その言葉に、胸が締め付けられた。
母も、朝倉くんも、同じことを言ってくれる。
私を責めないで、と。
「でも──」
「澪」
母が、私の名前を呼んだ。
「もう、自分を責めるのはやめて」
母の言葉が、心に染みた。
自分を責めるのをやめる。
それが、できるだろうか。
「すぐには無理かもしれないけど」
母は、優しく笑った。
「少しずつ、前を向いていけばいいのよ」
その時、会場の入り口から誰かが入ってきた。
朝倉くんだった。
彼は、会場を見回して、私を見つけると手を振った。
「お母さん、あの子が──」
母が気づいた。
「朝倉くん?」
「……うん」
朝倉くんが、こちらへ歩いてきた。
「桜井さん、来てたんだ」
「うん」
彼は、母に気づいて、慌てて頭を下げた。
「初めまして。桜井さんの同級生の、朝倉です」
「初めまして。澪の母です」
母は、朝倉くんを見て、嬉しそうに笑った。
「朝倉くん、澪の写真、見に来てくれたの?」
「はい。桜井さんの写真、すごく楽しみにしてたので」
「そう。ありがとうね」
母は、私を見て、意味ありげに笑った。
「じゃあ、お母さんは先に帰るわね」
「え?」
「二人で、ゆっくり見てきなさい」
母は、そう言って会場を出て行った。
私と朝倉くんが、二人残された。
少し、気まずい沈黙が流れた。
「……母さん、なんか勘違いしてるかも」
「そうかな」
朝倉くんは、少し照れくさそうに笑った。
「でも、いいお母さんだね」
「……うん」
二人で、私の写真の前に立った。
朝倉くんは、一枚一枚じっくり見ていた。
「やっぱり、いい写真だ」
彼が、小さく呟いた。
「桜井さんの『声』が、ちゃんと聞こえる」
「……どんな声?」
「寂しいけど、諦めてない声」
朝倉くんは、私を見た。
「孤独だけど、まだ希望を探してる声」
その言葉が、胸に響いた。
私は、まだ希望を探しているのか。
自分では、よくわからなかった。
でも、朝倉くんにはそう見えるらしい。
「桜井さん」
朝倉くんが、真剣な顔で言った。
「俺、やっぱり桜井さんと距離を置きたくない」
「朝倉くん──」
「桜井さんが決めたことだから、尊重しようと思った。でも、無理だった」
彼の目は、真っ直ぐだった。
「桜井さんのそばにいたい。一緒に写真を撮りたい。一緒に笑いたい」
涙が、溢れてきた。
朝倉くんは、諦めていなかった。
私を、諦めていなかった。
「でも、私——」
「桜井さんが怖いのは、わかってる。また誰かを傷つけるんじゃないかって」
朝倉くんは、私の手を取った。
「でも、俺は大丈夫。桜井さんになら、傷つけられてもいい」
その言葉に、心が震えた。
傷つけられてもいい。
そんなこと、言ってくれる人がいるなんて。
「朝倉くん、ありがとう」
私は、涙を拭いた。
「でも、もう少し時間をちょうだい」
「……わかった」
朝倉くんは、少し寂しそうに笑った。
「待ってる。ずっと」
その日の夕方、家に帰ると、母がリビングで待っていた。
「おかえり。朝倉くんとは、どうだった?」
「……いい人だよ」
「そうね。お母さんにもわかったわ」
母は、お茶を淹れながら言った。
「澪のこと、大切に思ってくれてるのね」
「……うん」
母は、私の隣に座った。
「澪、もう一度聞くわ」
「何?」
「朝倉くんのこと、好き?」
その質問に、心臓が跳ねた。
「……わかんない」
「わかんない?」
「好きって、どういう感じなのかわかんない」
母は、少し考えてから言った。
「その人と一緒にいたいって思う?」
「……思う」
「その人の笑顔が見たいって思う?」
「思う」
「その人が悲しんでたら、自分も悲しくなる?」
「……なる」
母は、優しく笑った。
「それが、好きってことよ」
好き。
私は、朝倉くんのことが好きなのか。
そう考えると、胸が熱くなった。
「でも、お母さん」
「ん?」
「私、まだ怖い」
「怖い?」
「好きになって、また傷つけちゃうんじゃないかって」
母は、私の頭を撫でた。
「澪はね、優しすぎるのよ」
「……え?」
「人を傷つけるのが怖くて、自分を傷つけてる」
母の言葉が、胸に刺さった。
「でもね、人を好きになるって、そういうリスクも込みなのよ」
「傷つけるかもしれない。傷つけられるかもしれない。でも、それでも一緒にいたいって思う」
母は、私の目を見た。
「それが、愛するってことなのよ」
愛する。
その言葉が、重かった。
でも、同時に──温かかった。
その夜、ベッドに横になりながら考えた。
朝倉くんのこと。
母の言葉。
写真展での出会い。
全部が、私の心を少しずつ溶かしていく。
スマホに、朝倉くんからメッセージが来た。
『今日はありがとう。桜井さんの写真、やっぱり最高だったよ』
私は、返信した。
『来てくれて、ありがとう』
送信してから、もう一通送った。
『朝倉くんの言葉、嬉しかった』
すぐに返事が来た。
『俺も、桜井さんと話せて嬉しかった。また明日ね』
また明日。
その言葉が、心地よかった。
明日も、朝倉くんに会える。
それだけで、少しだけ──。
前を向ける気がした。
私は何度も鏡の前に立った。服を着替えて、また脱いで、また着て。何を着ていけばいいのかわからなかった。
結局、白いシャツとジーンズという、いつも通りの格好に落ち着いた。
リビングに行くと、母が朝食の準備をしていた。
「おはよう。今日、写真展でしょ?」
「うん」
「お母さん、午後から行くわね」
「……来なくてもいいよ」
「行きたいの。澪の写真、ちゃんと見たいから」
母の言葉が、嬉しかった。
朝食を食べながら、母が聞いてきた。
「緊張してる?」
「……すごく」
「大丈夫よ。澪の写真、素敵だもの」
母は、優しく笑った。
「自信持って」
午前十時、ギャラリーが開館する。
私は、少し遅れて十一時頃に会場へ行くことにした。
開館と同時に行くのは、怖すぎた。
家を出る前、鏡をもう一度見る。
いつもの私。
でも、今日は少しだけ違う気がした。
ギャラリーに着くと、すでに何人かの来場者がいた。
受付で名前を告げると、「出展者ですね」と確認された。
会場に入る。
白い壁に並んだ、たくさんの写真。
その中に、私の写真もあった。
自分の写真の前に立つ。
雨に濡れた窓ガラス越しの街。
夕暮れの空と街灯。
誰もいない公園のベンチと、忘れ物の傘。
こうして展示されると、また違って見えた。
客観的に見ると、本当に寂しい写真だった。
しばらく自分の写真を見つめていると、隣に誰かが来た。
六十代くらいの女性だった。
「これ、あなたが撮ったの?」
突然話しかけられて、驚いた。
「……はい」
「素敵ね」
女性は、写真を見つめながら言った。
「特に、この傘の写真。何か、物語を感じるわ」
物語。
その言葉が、意外だった。
「どんな物語ですか?」
私が聞くと、女性は少し考えてから答えた。
「そうね……誰かが、ここにいたのよね。でも、もういない。傘だけが残されて」
女性は、私を見た。
「これ、あなた自身のことじゃない?」
その言葉に、息を呑んだ。
見抜かれている。
この写真が、私の心そのものだということを。
「……そうかもしれません」
「辛かったのね」
女性の声は、優しかった。
「でも、こうして写真にできたってことは、前を向こうとしてるってことよ」
前を向こうとしている。
朝倉くんも、同じことを言っていた。
「頑張ってね」
女性は、そう言って去っていった。
私は、その背中を見送った。
知らない人に、励まされた。
それが、不思議と嬉しかった。
午後二時頃、母が会場に来た。
「澪、いた」
母は、少し興奮した様子で近づいてきた。
「写真、見たわよ。すごく良かった」
「……ありがとう」
「特に、この窓ガラスの写真。綺麗だけど、切ない感じがする」
母は、写真を見つめながら言った。
「澪の心が、写ってるわね」
母も、わかっているのだ。
この写真が、私の心だということを。
「お母さん」
「ん?」
「私、ちゃんと前に進めてるかな」
その質問に、母は少し驚いたような顔をした。
そして、私の手を取った。
「澪はね、もう十分頑張ってるわ」
母の声は、優しかった。
「写真を撮り続けて、写真展に応募して、ここに立ってる。それだけで、すごいことよ」
「でも、私──」
「澪が思ってるほど、澪は弱くない」
母は、私の目を見た。
「中学の時のこと、まだ引きずってるでしょ?」
私は、頷いた。
母は、知っていたのだ。
私が、美咲のことをずっと後悔していることを。
「お母さんね、澪が毎晩泣いてるの、知ってたわ」
「……え?」
「中学の時も、高校に入ってからも。澪、夜中に泣いてたでしょ」
母は、悲しそうな顔をした。
「お母さん、何もしてあげられなくて、ごめんね」
涙が、溢れてきた。
母は、ずっと知っていた。
私の苦しみを。
でも、何も言わずに見守っていてくれた。
「お母さん、私──」
「いいのよ。澪が自分で乗り越えなきゃいけないことだから」
母は、私を抱きしめた。
「でも、一つだけ言わせて」
母は、私の肩に手を置いた。
「澪は、誰も裏切ってない」
「でも、美咲を──」
「中学生の澪が、どれだけ怖かったか。お母さんにはわかるわ」
母の目に、涙が浮かんでいた。
「声をかけられなかったことを、責めないで」
その言葉に、胸が締め付けられた。
母も、朝倉くんも、同じことを言ってくれる。
私を責めないで、と。
「でも──」
「澪」
母が、私の名前を呼んだ。
「もう、自分を責めるのはやめて」
母の言葉が、心に染みた。
自分を責めるのをやめる。
それが、できるだろうか。
「すぐには無理かもしれないけど」
母は、優しく笑った。
「少しずつ、前を向いていけばいいのよ」
その時、会場の入り口から誰かが入ってきた。
朝倉くんだった。
彼は、会場を見回して、私を見つけると手を振った。
「お母さん、あの子が──」
母が気づいた。
「朝倉くん?」
「……うん」
朝倉くんが、こちらへ歩いてきた。
「桜井さん、来てたんだ」
「うん」
彼は、母に気づいて、慌てて頭を下げた。
「初めまして。桜井さんの同級生の、朝倉です」
「初めまして。澪の母です」
母は、朝倉くんを見て、嬉しそうに笑った。
「朝倉くん、澪の写真、見に来てくれたの?」
「はい。桜井さんの写真、すごく楽しみにしてたので」
「そう。ありがとうね」
母は、私を見て、意味ありげに笑った。
「じゃあ、お母さんは先に帰るわね」
「え?」
「二人で、ゆっくり見てきなさい」
母は、そう言って会場を出て行った。
私と朝倉くんが、二人残された。
少し、気まずい沈黙が流れた。
「……母さん、なんか勘違いしてるかも」
「そうかな」
朝倉くんは、少し照れくさそうに笑った。
「でも、いいお母さんだね」
「……うん」
二人で、私の写真の前に立った。
朝倉くんは、一枚一枚じっくり見ていた。
「やっぱり、いい写真だ」
彼が、小さく呟いた。
「桜井さんの『声』が、ちゃんと聞こえる」
「……どんな声?」
「寂しいけど、諦めてない声」
朝倉くんは、私を見た。
「孤独だけど、まだ希望を探してる声」
その言葉が、胸に響いた。
私は、まだ希望を探しているのか。
自分では、よくわからなかった。
でも、朝倉くんにはそう見えるらしい。
「桜井さん」
朝倉くんが、真剣な顔で言った。
「俺、やっぱり桜井さんと距離を置きたくない」
「朝倉くん──」
「桜井さんが決めたことだから、尊重しようと思った。でも、無理だった」
彼の目は、真っ直ぐだった。
「桜井さんのそばにいたい。一緒に写真を撮りたい。一緒に笑いたい」
涙が、溢れてきた。
朝倉くんは、諦めていなかった。
私を、諦めていなかった。
「でも、私——」
「桜井さんが怖いのは、わかってる。また誰かを傷つけるんじゃないかって」
朝倉くんは、私の手を取った。
「でも、俺は大丈夫。桜井さんになら、傷つけられてもいい」
その言葉に、心が震えた。
傷つけられてもいい。
そんなこと、言ってくれる人がいるなんて。
「朝倉くん、ありがとう」
私は、涙を拭いた。
「でも、もう少し時間をちょうだい」
「……わかった」
朝倉くんは、少し寂しそうに笑った。
「待ってる。ずっと」
その日の夕方、家に帰ると、母がリビングで待っていた。
「おかえり。朝倉くんとは、どうだった?」
「……いい人だよ」
「そうね。お母さんにもわかったわ」
母は、お茶を淹れながら言った。
「澪のこと、大切に思ってくれてるのね」
「……うん」
母は、私の隣に座った。
「澪、もう一度聞くわ」
「何?」
「朝倉くんのこと、好き?」
その質問に、心臓が跳ねた。
「……わかんない」
「わかんない?」
「好きって、どういう感じなのかわかんない」
母は、少し考えてから言った。
「その人と一緒にいたいって思う?」
「……思う」
「その人の笑顔が見たいって思う?」
「思う」
「その人が悲しんでたら、自分も悲しくなる?」
「……なる」
母は、優しく笑った。
「それが、好きってことよ」
好き。
私は、朝倉くんのことが好きなのか。
そう考えると、胸が熱くなった。
「でも、お母さん」
「ん?」
「私、まだ怖い」
「怖い?」
「好きになって、また傷つけちゃうんじゃないかって」
母は、私の頭を撫でた。
「澪はね、優しすぎるのよ」
「……え?」
「人を傷つけるのが怖くて、自分を傷つけてる」
母の言葉が、胸に刺さった。
「でもね、人を好きになるって、そういうリスクも込みなのよ」
「傷つけるかもしれない。傷つけられるかもしれない。でも、それでも一緒にいたいって思う」
母は、私の目を見た。
「それが、愛するってことなのよ」
愛する。
その言葉が、重かった。
でも、同時に──温かかった。
その夜、ベッドに横になりながら考えた。
朝倉くんのこと。
母の言葉。
写真展での出会い。
全部が、私の心を少しずつ溶かしていく。
スマホに、朝倉くんからメッセージが来た。
『今日はありがとう。桜井さんの写真、やっぱり最高だったよ』
私は、返信した。
『来てくれて、ありがとう』
送信してから、もう一通送った。
『朝倉くんの言葉、嬉しかった』
すぐに返事が来た。
『俺も、桜井さんと話せて嬉しかった。また明日ね』
また明日。
その言葉が、心地よかった。
明日も、朝倉くんに会える。
それだけで、少しだけ──。
前を向ける気がした。



