文化祭から一週間が経った。
クラスの空気は、日に日に重くなっていった。
表面上は何も起きていない。誰かが私に直接何かを言うわけでもない。でも、確実に距離を置かれていた。
グループワークの時、私だけ誘われない。
休み時間、私の席の周りだけ人がいない。
廊下ですれ違う時、会話が途切れる。
中学の時と、同じだった。
火曜日の放課後、写真部の部室へ行った。
ここだけが、私の居場所だった。
「桜井さん、お疲れ様」
三島先輩が、明るく声をかけてくれた。
「文化祭、すごくよかったよね。今年は来場者数も過去最高だったって」
「そうなんですか」
「うん。特に桜井さんの写真、評判よくて。来年の写真部の勧誘に使わせてもらおうかなって思ってる」
その言葉が、嬉しかった。
少なくともここでは、私は必要とされている。
パソコンに向かって、新しい写真の整理をしていると、朝倉くんが隣に座った。
「最近、撮影行ってる?」
「……あんまり」
「そっか。じゃあ、今度一緒に行こうか」
「うん」
朝倉くんとの会話は、いつも自然だった。
無理に話さなくてもいい。沈黙も怖くない。
ただ、隣にいてくれるだけで、安心できた。
水曜日の朝、下駄箱で靴を履き替えていると、中に紙が入っていた。
折りたたまれた紙。
嫌な予感がした。
でも、開かずにはいられなかった。
紙を広げると、そこには一行だけ書かれていた。
『友達裏切るやつが、また友達作ろうとしてるの笑える』
心臓が、止まりそうになった。
手が震えた。
周りを見回すと、何人かの生徒がこちらを見ていた。
誰が書いたのか。
誰が、下駄箱に入れたのか。
わからない。
でも、確実に誰かが私を標的にしている。
教室に行く気力がなくなった。
でも、行かないわけにはいかない。
深呼吸をして、階段を上る。
教室のドアを開けると、数人の視線が私に向いた。
知ってる、という目。
下駄箱の紙のことを、知ってる。
席に座ると、隣の朝倉くんが心配そうな顔で見てきた。
「大丈夫?」
「……うん」
「顔、真っ青だよ」
「大丈夫」
そう言ったけれど、全然大丈夫じゃなかった。
胸が苦しくて、息ができなかった。
授業中、黒板の字が頭に入ってこなかった。
ただ、ノートにペンを走らせるだけ。
周りの視線が、ずっと気になった。
後ろから、小さな笑い声が聞こえた。
私のことを、笑っているんじゃないか。
そう思うと、涙が出そうになった。
昼休み、また屋上へ逃げた。
フェンスに寄りかかって、今日の朝のことを思い返す。
『友達裏切るやつが、また友達作ろうとしてるの笑える』
その言葉が、頭から離れない。
私は、また友達を作ろうとしているのか。
朝倉くんは、友達なのか。
写真部のみんなは、友達なのか。
わからない。
でも、もし友達だとしたら──また裏切ってしまうのではないか。
「桜井さん」
朝倉くんの声がした。
また、探しに来てくれた。
「……ごめん。また心配かけて」
「謝らないで。どうしたの? 今日、すごく元気ないよ」
私は、少し迷ってから、下駄箱の紙のことを話した。
朝倉くんは、眉をひそめた。
「誰が書いたの?」
「わからない」
「ひどいな」
彼は、フェンスの隣に来て座った。
「桜井さん、気にしないで」
「……でも」
「そんなこと書く人の方が、おかしいから」
朝倉くんの言葉は、優しかった。
でも、気にしないなんて、無理だった。
あの言葉は、私の一番痛いところを突いてきた。
「朝倉くん」
「ん?」
「もしかして、私と一緒にいることで、朝倉くんも何か言われてる?」
朝倉くんは、少し考えてから答えた。
「……少し」
「やっぱり」
「でも、気にしてないから」
「でも——」
「桜井さんが気にする必要ないよ。俺が勝手に一緒にいたいだけだから」
その夜、家に帰ってから母に相談した。
珍しいことだった。
母に、学校のことを話すなんて。
「お母さん」
リビングで、母と向かい合って座る。
「どうしたの?」
「学校で、ちょっと嫌なことがあって」
母は、真剣な顔で聞いてくれた。
私は、全部話した。
文化祭のレジのこと。下駄箱の紙のこと。クラスで孤立していること。
母は、黙って聞いていた。
「それは、辛かったわね」
「うん」
「澪は、どうしたいの?」
どうしたい?
私は、考えた。
「……わからない。でも、学校に行きたくない」
母は、少し考えてから言った。
「無理に行かなくてもいいのよ」
「え?」
「辛い時は、休んでもいい。でも──」
母は、私の目を見た。
「逃げ続けることは、できないわ」
逃げ続けることは、できない。
その言葉が、胸に刺さった。
「いつかは、向き合わないといけない。でも、今じゃなくてもいい」
翌日、木曜日。
私は、学校を休んだ。
朝、母に「休みたい」と言うと、母は何も聞かずに頷いてくれた。
「わかった。ゆっくり休んで」
母が仕事に出かけた後、私は一人で部屋にいた。
ベッドに横になって、天井を見上げる。
学校を休んだのは、文化祭前以来だった。
スマホに、朝倉くんから着信があった。
出るべきか迷ったけれど、出た。
「もしもし」
「桜井さん、今日休んでるって聞いた。大丈夫?」
「……うん。ちょっと疲れて」
「そっか。無理しないでね」
朝倉くんの声は、いつも通り優しかった。
「桜井さん、写真部のこと、気にしないで。みんな、桜井さんのこと待ってるから」
「……ありがとう」
電話を切った後、涙が溢れてきた。
なんで、こんなに優しくしてくれるんだろう。
私なんかに。
友達を裏切った私なんかに。
朝倉くんは、知らないのだ。
私が、どれだけ卑怯な人間なのか。
美咲を見捨てた、最低な人間なのか。
午後、スマホに写真部のグループLINEから通知が来た。
三島先輩からのメッセージ。
『桜井さん、体調大丈夫? 無理しないでね。元気になったら、また撮影行こうね』
水野くんも、伊藤さんも、心配のメッセージを送ってくれた。
みんな、優しかった。
でも、その優しさが、逆に苦しかった。
私は、そんな優しさを受け取る資格があるのか。
金曜日も、学校を休んだ。
二日連続で休むのは、初めてだった。
母は、何も言わなかった。
ただ、「大丈夫?」と聞くだけ。
「……うん」
「無理しないでね」
母の優しさも、辛かった。
午後、朝倉くんがまた電話をかけてきた。
「桜井さん、明日土曜日だけど、撮影行かない?」
「……行けない」
「そっか。じゃあ、無理しなくていいよ」
少し沈黙があった。
「桜井さん、写真撮ってる?」
「撮ってない」
「そっか」
また沈黙。
「桜井さん、写真、諦めないでね」
写真を諦めない。
でも、私には写真を撮る資格があるのか。
自分の心を写真にする資格が。
わからなかった。
土曜日、朝。
私は、久しぶりにカメラを手に取った。
三島先輩から借りたカメラ。
もう一ヶ月以上、触っていなかった。
電源を入れて、液晶画面を見る。
最後に撮った写真が映った。
朝倉くんの横顔。
川を見つめる彼。
あの時は、楽しかった。
朝倉くんと一緒に撮影して、お互いの過去を話して。
二人で、前を向こうとしていた。
でも、今は──。
また、過去に引き戻されている。
美咲を見捨てた過去に。
窓の外を見ると、雨が降っていた。
梅雨の長雨。
空は灰色で、重たい雲が垂れ込めている。
カメラを構えて、窓から外を撮った。
雨に濡れた街。
灰色の空。
誰もいない道。
シャッターを切った。
液晶画面を見る。
そこには、寂しい景色があった。
色のない世界。
光のない世界。
これが、今の私の心なのかもしれない。
スマホに、朝倉くんからメッセージが来た。
『今日は雨だから、撮影中止にしたよ。桜井さん、元気になったら教えてね』
私は、返信しなかった。
何を返せばいいのか、わからなかった。
日曜日、雨は止んでいた。
でも、空はまだ曇っていた。
私は、一人で近所を歩いた。
カメラを首にかけて、何か撮れるものを探す。
でも、何を撮ればいいのかわからなかった。
ファインダーを覗いても、何も見えなかった。
公園のベンチに座って、ぼんやりと空を見上げる。
誰かが隣に座った。
振り向くと、朝倉くんがいた。
「……なんで?」
「桜井さん、外にいるって気がして」
「なんでわかるの?」
「なんとなく」
朝倉くんは、私の隣に座った。
しばらく、二人とも何も話さなかった。
ただ、曇り空を見上げていた。
「桜井さん」
朝倉くんが、口を開いた。
「俺、桜井さんがいなくなったら、寂しい」
「……え?」
「写真部も、学校も、桜井さんがいないと物足りない」
彼は、私を見た。
「だから、逃げないでほしい」
逃げないで。
その言葉が、胸に響いた。
でも、私は──。
「朝倉くん、私、もうわからない」
涙が、溢れてきた。
「私が、ここにいていいのかわからない。写真を撮っていいのかわからない。朝倉くんと一緒にいていいのかわからない」
「桜井さん──」
「私、美咲を見捨てたのに。また同じことするかもしれないのに」
朝倉くんは、何も言わなかった。
ただ、私の隣に座っていた。
そして、静かに言った。
「桜井さん、過去は変えられない。でも、未来は変えられる」
「……未来?」
「うん。今度は、見捨てなければいい。今度は、ちゃんと向き合えばいい」
彼は、真っ直ぐ私を見た。
「俺は、桜井さんを信じてる」
その言葉が、心に染みた。
信じてる。
朝倉くんは、私を信じてくれている。
裏切るかもしれない私を。
それでも、信じてくれている。
クラスの空気は、日に日に重くなっていった。
表面上は何も起きていない。誰かが私に直接何かを言うわけでもない。でも、確実に距離を置かれていた。
グループワークの時、私だけ誘われない。
休み時間、私の席の周りだけ人がいない。
廊下ですれ違う時、会話が途切れる。
中学の時と、同じだった。
火曜日の放課後、写真部の部室へ行った。
ここだけが、私の居場所だった。
「桜井さん、お疲れ様」
三島先輩が、明るく声をかけてくれた。
「文化祭、すごくよかったよね。今年は来場者数も過去最高だったって」
「そうなんですか」
「うん。特に桜井さんの写真、評判よくて。来年の写真部の勧誘に使わせてもらおうかなって思ってる」
その言葉が、嬉しかった。
少なくともここでは、私は必要とされている。
パソコンに向かって、新しい写真の整理をしていると、朝倉くんが隣に座った。
「最近、撮影行ってる?」
「……あんまり」
「そっか。じゃあ、今度一緒に行こうか」
「うん」
朝倉くんとの会話は、いつも自然だった。
無理に話さなくてもいい。沈黙も怖くない。
ただ、隣にいてくれるだけで、安心できた。
水曜日の朝、下駄箱で靴を履き替えていると、中に紙が入っていた。
折りたたまれた紙。
嫌な予感がした。
でも、開かずにはいられなかった。
紙を広げると、そこには一行だけ書かれていた。
『友達裏切るやつが、また友達作ろうとしてるの笑える』
心臓が、止まりそうになった。
手が震えた。
周りを見回すと、何人かの生徒がこちらを見ていた。
誰が書いたのか。
誰が、下駄箱に入れたのか。
わからない。
でも、確実に誰かが私を標的にしている。
教室に行く気力がなくなった。
でも、行かないわけにはいかない。
深呼吸をして、階段を上る。
教室のドアを開けると、数人の視線が私に向いた。
知ってる、という目。
下駄箱の紙のことを、知ってる。
席に座ると、隣の朝倉くんが心配そうな顔で見てきた。
「大丈夫?」
「……うん」
「顔、真っ青だよ」
「大丈夫」
そう言ったけれど、全然大丈夫じゃなかった。
胸が苦しくて、息ができなかった。
授業中、黒板の字が頭に入ってこなかった。
ただ、ノートにペンを走らせるだけ。
周りの視線が、ずっと気になった。
後ろから、小さな笑い声が聞こえた。
私のことを、笑っているんじゃないか。
そう思うと、涙が出そうになった。
昼休み、また屋上へ逃げた。
フェンスに寄りかかって、今日の朝のことを思い返す。
『友達裏切るやつが、また友達作ろうとしてるの笑える』
その言葉が、頭から離れない。
私は、また友達を作ろうとしているのか。
朝倉くんは、友達なのか。
写真部のみんなは、友達なのか。
わからない。
でも、もし友達だとしたら──また裏切ってしまうのではないか。
「桜井さん」
朝倉くんの声がした。
また、探しに来てくれた。
「……ごめん。また心配かけて」
「謝らないで。どうしたの? 今日、すごく元気ないよ」
私は、少し迷ってから、下駄箱の紙のことを話した。
朝倉くんは、眉をひそめた。
「誰が書いたの?」
「わからない」
「ひどいな」
彼は、フェンスの隣に来て座った。
「桜井さん、気にしないで」
「……でも」
「そんなこと書く人の方が、おかしいから」
朝倉くんの言葉は、優しかった。
でも、気にしないなんて、無理だった。
あの言葉は、私の一番痛いところを突いてきた。
「朝倉くん」
「ん?」
「もしかして、私と一緒にいることで、朝倉くんも何か言われてる?」
朝倉くんは、少し考えてから答えた。
「……少し」
「やっぱり」
「でも、気にしてないから」
「でも——」
「桜井さんが気にする必要ないよ。俺が勝手に一緒にいたいだけだから」
その夜、家に帰ってから母に相談した。
珍しいことだった。
母に、学校のことを話すなんて。
「お母さん」
リビングで、母と向かい合って座る。
「どうしたの?」
「学校で、ちょっと嫌なことがあって」
母は、真剣な顔で聞いてくれた。
私は、全部話した。
文化祭のレジのこと。下駄箱の紙のこと。クラスで孤立していること。
母は、黙って聞いていた。
「それは、辛かったわね」
「うん」
「澪は、どうしたいの?」
どうしたい?
私は、考えた。
「……わからない。でも、学校に行きたくない」
母は、少し考えてから言った。
「無理に行かなくてもいいのよ」
「え?」
「辛い時は、休んでもいい。でも──」
母は、私の目を見た。
「逃げ続けることは、できないわ」
逃げ続けることは、できない。
その言葉が、胸に刺さった。
「いつかは、向き合わないといけない。でも、今じゃなくてもいい」
翌日、木曜日。
私は、学校を休んだ。
朝、母に「休みたい」と言うと、母は何も聞かずに頷いてくれた。
「わかった。ゆっくり休んで」
母が仕事に出かけた後、私は一人で部屋にいた。
ベッドに横になって、天井を見上げる。
学校を休んだのは、文化祭前以来だった。
スマホに、朝倉くんから着信があった。
出るべきか迷ったけれど、出た。
「もしもし」
「桜井さん、今日休んでるって聞いた。大丈夫?」
「……うん。ちょっと疲れて」
「そっか。無理しないでね」
朝倉くんの声は、いつも通り優しかった。
「桜井さん、写真部のこと、気にしないで。みんな、桜井さんのこと待ってるから」
「……ありがとう」
電話を切った後、涙が溢れてきた。
なんで、こんなに優しくしてくれるんだろう。
私なんかに。
友達を裏切った私なんかに。
朝倉くんは、知らないのだ。
私が、どれだけ卑怯な人間なのか。
美咲を見捨てた、最低な人間なのか。
午後、スマホに写真部のグループLINEから通知が来た。
三島先輩からのメッセージ。
『桜井さん、体調大丈夫? 無理しないでね。元気になったら、また撮影行こうね』
水野くんも、伊藤さんも、心配のメッセージを送ってくれた。
みんな、優しかった。
でも、その優しさが、逆に苦しかった。
私は、そんな優しさを受け取る資格があるのか。
金曜日も、学校を休んだ。
二日連続で休むのは、初めてだった。
母は、何も言わなかった。
ただ、「大丈夫?」と聞くだけ。
「……うん」
「無理しないでね」
母の優しさも、辛かった。
午後、朝倉くんがまた電話をかけてきた。
「桜井さん、明日土曜日だけど、撮影行かない?」
「……行けない」
「そっか。じゃあ、無理しなくていいよ」
少し沈黙があった。
「桜井さん、写真撮ってる?」
「撮ってない」
「そっか」
また沈黙。
「桜井さん、写真、諦めないでね」
写真を諦めない。
でも、私には写真を撮る資格があるのか。
自分の心を写真にする資格が。
わからなかった。
土曜日、朝。
私は、久しぶりにカメラを手に取った。
三島先輩から借りたカメラ。
もう一ヶ月以上、触っていなかった。
電源を入れて、液晶画面を見る。
最後に撮った写真が映った。
朝倉くんの横顔。
川を見つめる彼。
あの時は、楽しかった。
朝倉くんと一緒に撮影して、お互いの過去を話して。
二人で、前を向こうとしていた。
でも、今は──。
また、過去に引き戻されている。
美咲を見捨てた過去に。
窓の外を見ると、雨が降っていた。
梅雨の長雨。
空は灰色で、重たい雲が垂れ込めている。
カメラを構えて、窓から外を撮った。
雨に濡れた街。
灰色の空。
誰もいない道。
シャッターを切った。
液晶画面を見る。
そこには、寂しい景色があった。
色のない世界。
光のない世界。
これが、今の私の心なのかもしれない。
スマホに、朝倉くんからメッセージが来た。
『今日は雨だから、撮影中止にしたよ。桜井さん、元気になったら教えてね』
私は、返信しなかった。
何を返せばいいのか、わからなかった。
日曜日、雨は止んでいた。
でも、空はまだ曇っていた。
私は、一人で近所を歩いた。
カメラを首にかけて、何か撮れるものを探す。
でも、何を撮ればいいのかわからなかった。
ファインダーを覗いても、何も見えなかった。
公園のベンチに座って、ぼんやりと空を見上げる。
誰かが隣に座った。
振り向くと、朝倉くんがいた。
「……なんで?」
「桜井さん、外にいるって気がして」
「なんでわかるの?」
「なんとなく」
朝倉くんは、私の隣に座った。
しばらく、二人とも何も話さなかった。
ただ、曇り空を見上げていた。
「桜井さん」
朝倉くんが、口を開いた。
「俺、桜井さんがいなくなったら、寂しい」
「……え?」
「写真部も、学校も、桜井さんがいないと物足りない」
彼は、私を見た。
「だから、逃げないでほしい」
逃げないで。
その言葉が、胸に響いた。
でも、私は──。
「朝倉くん、私、もうわからない」
涙が、溢れてきた。
「私が、ここにいていいのかわからない。写真を撮っていいのかわからない。朝倉くんと一緒にいていいのかわからない」
「桜井さん──」
「私、美咲を見捨てたのに。また同じことするかもしれないのに」
朝倉くんは、何も言わなかった。
ただ、私の隣に座っていた。
そして、静かに言った。
「桜井さん、過去は変えられない。でも、未来は変えられる」
「……未来?」
「うん。今度は、見捨てなければいい。今度は、ちゃんと向き合えばいい」
彼は、真っ直ぐ私を見た。
「俺は、桜井さんを信じてる」
その言葉が、心に染みた。
信じてる。
朝倉くんは、私を信じてくれている。
裏切るかもしれない私を。
それでも、信じてくれている。



