アンケート ― 選ばないという選択 ―

翔から連絡が来たのは、昼前だった。

「廃施設で、少しだけ片付けをしました。
サーバーはそのまま置いておきます。でも、部屋の端に椅子と机を置きました。何をするかはまだ分かりません」

美佳は「いい報告ですね」と返した。

「そうですか」と翔は返してきた。「自分ではよく分かりません」

「よく分からないのが、いい報告だと思います」

しばらく間があって、「なるほど」と来た。

有栖川から昼過ぎにメッセージが届いた。

「ミオさんが、久坂さんに手紙を書くと言っています。送るかどうかはまだ決めていないそうですが」

美佳は「書くだけでもいいですね」と返した。

「そう伝えます」と有栖川は言った。少し間があって、「美佳さん、最近どうですか」と来た。

美佳は少し考えてから、「普通です。普通が続いています」と返した。

「それは、いいことですね」

「そうだと思います」

夕方、彩音が久しぶりにカフェに来た。

カウンターに座り、紅茶を頼んで、しばらく何も言わなかった。美佳も急かさなかった。

「@LAPIS_echo、最初の投稿をしました」と彩音はやがて言った。「週一回だけ。問いを一つ、置いておくだけ」

「何を投稿したんですか」

彩音はスマートフォンを取り出して、美佳に見せた。

画面には一行だけあった。

「今日、あなたにとってどんな一日でしたか」

美佳はそれを読んだ。何度か読んだ。

「いいですね」と美佳は言った。

「答えなくてもいい問いにしたかった」と彩音は言った。「ただ、そこにある感じ。受け取るかどうかは、受け取る人が決める」

美佳は「ユリさんのことを覚えていますね」と言った。

彩音は少し笑った。「覚えています」

閉店後、美佳はエプロンを畳みながら、久坂のことを考えた。

連絡はなかった。今日も、なかった。

久坂がどこにいるか、美佳は知らなかった。

彩音も知らないと言っていた。

ただ、機能を消した夜に「終わりました」と
一行送ってきた。それが最後だった。

美佳はしばらく、畳んだエプロンを手に持ったまま立っていた。

久坂のことは、久坂のものだと思った。

追いかけることは、自分のすることじゃない。でも、どこかで今日を生きていてほしいと思った。それは本当だった。

エプロンを棚に置いた。明日のために。