クッキーは二種類あって、一つはアプリコットジャムが艶めくジャムクッキー、もう一つは粉砂糖がたっぷりまぶさったスノーボールクッキーだ。
フィリーネはジャムクッキーから口に運ぶ。
バターがたっぷり練り込まれたジャムクッキーはしっとりとした舌触りで、噛み締めるとアプリコットの爽やかな酸味が口の中いっぱいに広がった。
あまりの美味しさに顎が落ちる。頬に手を添えるフィリーネは目をキラキラと輝かせた。
シドリウスの屋敷に来てから、毎日美味しい食べ物を食べさせてもらっている。
これまでアバロンド家で食べてきた料理はカチカチになったパンとくず野菜のスープ、たまの贅沢で出される肉は固かった。一方、カロンが出してくれる食事はまったく違う。
ふわふわのパンと丁寧に下処理された野菜のスープ、舌で崩せるほど柔らかな肉。そして、一度も口にすることのなかった甘いお菓子。
どれもこれも夢心地な美味しさで、世の中には美味しい食べ物がたくさん存在するのだと知った。
フィリーネがもう一枚ジャムクッキーを頬張っていると、コーディアルを飲み終えたカロンが空になったコップをテーブルに置く。
「ダンスに関しては悲観的にならないでくださいませ。シドリウス様と踊る日までまだ時間はあるので、きっと何とかなるのでございます」
「えっ、シドリウス様と踊るんですか?」
「もちろんでございます。特にお嫁様が成人したら、空都の舞踏会で踊ることになるでしょう」
フィリーネはギョッとした。驚いた拍子にうっかり咽せてしまう始末だ。
何故、生贄である自分が空都の舞踏会に参加する必要があるのだろう。
疑問に思ったが、すぐに答えは見つかった。



