アバロンド家にとって闇の精霊の話を外部の人に話すのは御法度だ。
闇の精霊は不幸を振り撒く存在だと言われている。
この話が世間一般で有名な話かどうか分からない。とはいえ、公爵に闇の精霊だと話して怖がられたらと思うと、正直に打ち明けられなかった。
「私はいつもこの子と一緒にいますが、精霊契約を結んでいません。精霊師ではありません」
フィリーネは紫紺蝶が何の精霊であるかを伏せた上で、精霊師ではないと否定した。
公爵は少し驚いてみせるも、すぐに穏やかな表情になる。
「契約を結んでいないのに、精霊が手を貸してくれるのかね? 精霊というのは気まぐれで、普通は人間に手を貸さないと聞くが……とにかく、助けてくれてありがとう。命の恩人の名前を知りたいんだが、訊いてもいいかな?」
「名乗るほどの者ではございません。一先ず、誰か呼んできますね。公爵様が目覚めたと知ったら、皆さんお喜びになると思います」
フィリーネはニコリと微笑む。側を飛んでいた紫紺蝶の前に人差し指を差し出していると、外から地響きと共にガラガラと何かが崩れる音が聞こえてきた。



